高血圧は私たちに最も身近な疾病の一つです。血圧が多少高くてもすぐに痛みが出たり、体に変調が起きたりする訳ではないのですが、では高血圧を治療する目的は何でしょうか?ズバリそれは重い病気にならず、健康で長生きするためです。血圧が高くなればなるほど、心血管病、脳卒中、慢性腎臓病などを発症するリスクや、これらの病気で死亡するリスクが高くなります。わが国において高血圧がもとで死亡される方は年間実に約10万人と推定され、脳卒中発症の50%以上が血圧高値に起因すると推定されます。高血圧の治療においてまず基本となるのが生活習慣の修正です。「血圧の薬を飲み始めると一生続けないといけないのでは?」とよく聞かれますが、生活習慣の修正によって薬を中止できることもあります。修正項目としては、①減塩、②野菜・果物の積極的な摂取、③コレステロールや飽和脂肪酸を控える、魚の積極的な摂取、④太っている方は減量、⑤毎日30分以上の無理のない運動、⑥お酒を控える(日本酒1合、ビール1本まで)、⑦禁煙、などがあげられます。これらの取り組みだけでは不十分な場合、お薬を飲んでいただくことになります。
高血圧のお薬(降圧薬)は数多くありますが、その降圧のメカニズムによりいくつかの種類(クラス)に分類されます。主要なクラスとして、Ca(カルシウム)拮抗薬、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬、利尿薬、β(ベータ)遮断薬があげられます。それぞれに積極的に使うべき病態や、使うべきでない、あるいは慎重に使うべき病態があります。例えばわが国でも頻用されているCa拮抗薬は、狭心症を合併する場合には積極的な適応ですが、心不全を合併する場合には慎重投与とされています。糖尿病を合併する場合には、ARBかACE阻害薬がまず推奨されます。さらに1剤で効果が不十分な場合には、同一薬の倍量投与よりも、異なるクラスの降圧薬を併用した方がより効果的なことも示されています。ARBあるいはACE阻害薬と、Ca拮抗薬あるいは利尿薬の併用療法は、それらの中でも代表的な組み合わせです。それでも不十分な場合3剤以上を併用することもあります。そして通常は140/90mmHg未満の診察室血圧を目指します。医師は個々の患者さんの状況を見極め、このような特性を踏まえた上で、ふさわしいお薬を選択しているのです。