保健の窓

舌がんから大切な命を守るために

鳥取赤十字病院 歯科口腔外科 大竹史浩

ただの口内炎と思っていませんか?

 ときおり「口の中にがんができるの?」と驚かれる方がおられます。がんは全身のいたるところにできますが、その1~3%が「口腔(こうくう)がん」です。年間約7000人が口腔がんにかかり、約3000人が生命を失っています。口腔がんは口の中にできるがんの総称で、「舌がん」「歯肉がん」「口腔底がん」「頬粘膜がん」など、いくつかの種類があります。その中で最も多いのが舌がんで約70%を占めています。舌がんの原因は、喫煙、飲酒、虫歯や合わない義歯の慢性的な粘膜刺激などが主な原因と考えられています。舌がんの予防は禁煙、節度ある飲酒が最も効果のある予防法であり、また虫歯の治療や義歯の調整など口腔内環境を整えておくことも舌がん予防には有効です。

舌がんの症状として特徴的なのが、舌の側縁にできる硬いしこりです。初期では痛みや出血が伴わない場合があります。痛みが出たり、食べものがしみたり、なかなか口内炎が治らない、などといった症状が出たときは、すでにがんが進行しているケースが多いのです。早期発見のためには、「口内炎が2週間たっても治らない」、「舌にしこりや出血がある」「口の中に白斑や赤斑がある」といった症状に気付いたら受診しましょう。

 

 

重要なのは早期発見・早期治療

 舌がんは早期発見・早期治療ができれば、簡単な治療で後遺症もほとんど残ることなく治癒が期待できるがんです。2018年度の調査では、舌がんの5年生存率は病期(ステージ)Ⅰ期では94.5%と完治が十分に可能ですが、Ⅳ期にもなると45%にまで落ちてしまいます。また進行した舌がんでは、命を救うために手術で大きく患部を切り取る必要があるため、食事や会話といった日常生活が不自由になります。近年、手術ができないほど進行した患者に対する薬物療法が急速な進歩を遂げています。がん細胞に効率よく攻撃する分子標的薬や、免疫療法である免疫チェックポイント阻害剤といった新しい治療薬が保険適応され、その治療効果が期待されています。日本は先進国の中で、唯一、舌がんの死亡率が増加している国です。舌がんは自分で初期の段階で見つけることができます。しかし、舌がんの認知度が低いために、口内炎や入れ歯による傷の痛みだと勘違いをして見逃されていることが、死亡率が減少しない要因です。重要なのは舌がんの認識、早期発見・早期治療です。気になる症状があれば自己判断せず、早めに歯科医院や耳鼻咽喉科を受診することで、大切な命を守ることができます。