保健の窓

免疫療法について知っておいてほしい事

鳥取県立中央病院 呼吸器内科 澄川 崇

 

免疫療法の衝撃

  これまでがんの治療といえば外科療法(手術)、化学療法(抗がん剤)、放射線治療の3本柱と言われてきました。その柱を緩和治療という土台の上に組み合わせながら治療方針を決めていくことになりますが、がんは様々な手段で私達の体内で生き残り、治療の限界を感じる事も少なくありません。そんな中、4本目の柱として登場したのが「免疫療法」です。免疫療法は以前から開発がすすめられ、多くはがんに対する免疫反応を増強させることを目指した治療でしたが、十分な治療効果を示すことができませんでした。その理由として特に重要なものに、がんが免疫細胞からの攻撃を回避する機構があります。つまり、これまでの免疫療法はブレーキを踏んだ状態(攻撃回避)で、アクセルを踏む(免疫増強)ことになり、期待していた効果が出なかったと考えられます。このブレーキの機序を解明したのが、ノーベル医学生理学賞を受賞された本庶佑先生らのグループとジェームズ・アリソン先生らのグループになります。このブレーキを解除する治療薬(免疫チェックポイント阻害剤)が、これまでの治療法を上回る効果を発揮することが報告され、様々ながんで使えるようになりました。

 

 

免疫療法の問題点

 免疫チェックポイント阻害剤はこれまでにない高い臨床効果を示し、大きなインパクトをもたらしました。しかし、問題点も多くあります。一つは効く人には効くが、効かない人には全く効かない事です。免疫チェックポイント阻害剤はおおよそ20~40%程度で効果があるとされ、効かない人の方が多いのが現状です。また、効かない人に使用し病状が進行した場合、抗がん剤の恩恵を受ける機会を逃してしまう場合もあります。つまり、免疫チェックポイント阻害剤を先にした方が良い患者さんと抗がん剤を先にした方が良い患者さんがおられるということです。よって、今後効果や副作用を予測できる検査が確立される事が望まれます。もう一つは副作用です。免疫チェックポイント阻害剤には特有の副作用が報告されており、種類も多く、分かりにくいこともあります。まれに副作用で死亡する例もあり、安全な治療というわけでもないため、十分な予備知識をもって、治療を受けていただくことが理想です。その他にも医療経済の問題や、保険外使用の問題などいろいろありますが、今後がん治療の柱としてさらに重要になることは間違いないと思われます。