保健の窓

脳卒中診療の進歩

鳥取県立中央病院神経内科医長 中安弘幸

 

昨年11月30日、日本神経学会と鳥取大学医学部脳神経内科の共催で「日本神経学会市民公開講座」が鳥取市において開かれました。その時10分あまり時間を頂き、脳卒中のお話をさせて頂きました。今回と次回の2回にわたりその時の話も交えながら、脳卒中につきお話させて頂きます。

脳卒中は脳の中に血が出る脳出血、脳の動脈にこぶがあり、それが破れて脳の表面に血が出るくも膜下出血、脳の血管が詰まる脳梗塞に主として大きく分ける事ができます。年齢を40歳以上に限ると、1年間に男100人に1人、女200人に1人の割合で、脳卒中に罹患されると報告されています。年齢が上がるに連れて脳卒中になる危険は増加する傾向がありますので、健康な長寿社会を目指す為には脳卒中対策を避けて通る事はできません。

それでは脳卒中になった時にどうすれば良いでしょうか。そもそも脳卒中の症状としては手足に力が入りにくくなったりしびれることが多いですが、その他に突然の激しい頭痛、ものが2重に見える、ろれつが回りにくくなる、気を失うといった症状もあります。この様な症状が出た時はできるだけ早く病院に行かれる事をお勧めします。なぜなら脳卒中は時間が経つと脳の病変が広がり、その結果として症状が強くなる事があるからです。救急病院には通常コンピューター断層撮影装置(CT)があり、脳病変を写真としてみる事ができます。それらの検査結果と診察結果を照らし合わせれば、早期に適切な治療を受けて頂く事が可能となります。脳卒中の薬や診療体制はここ10年でかなりの進歩を遂げていますので、万一の場合は早めに御来院下さいますようにお願いいたします。

前回は脳卒中と思ったら早めに来院して下さるようにとのお話をさせて頂きました。今回は脳卒中を予防するにはどうしたら良いかをお話します。

脳卒中の予防を考える場合、脳卒中になり易い危険因子を避ける必要があります。年を取れば脳卒中になり易くなる、男は脳卒中になりやすいなど、宿命的なものもありますが、一方心がけ次第で何とかなるものとしては喫煙、大酒、運動不足が挙げられます。また悪い食生活(食べ過ぎ、塩気や油の取りすぎなど)や運動不足は高血圧症、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病の原因となります。これらの生活習慣病があることは脳卒中を起こす危険因子になるばかりではなく、心筋梗塞、狭心症、下肢慢性動脈閉塞といったほかの血管の病気も起こりやすくしています。従って喫煙、大酒、運動不足、食べ過ぎ、塩気や油の取りすぎなどに注意を払って頂き、脳卒中ばかりではなく、上記の生活習慣病や他の血管の病気の発症を予防して頂ければと思います。

上記に注意を払っていただいても、血圧、コレステロール、糖の値が高かったり、心臓の病気のある方や脳卒中を含む血管の病気を既にお持ちの方は薬を処方させて頂くことになります。どの薬をどのくらい飲まれる必要があるかについては、医学はこの10年間に長足の進歩を遂げ、より個人個人に合わせた処方をさせて頂くようになっています。御夫婦でコレステロールの値が同じように高くても薬の量や種類が違っている場合がありますので、日頃からかかりつけ医をお持ちになり、御自身の体の状態をよく把握してもらい、体の状態にあった薬を処方してもらう事が大切です。