がんは日本人の死因第一位であり、その中でも最も多いのが肺がんです。二人に一人ががんになり、三人に一人はがんで亡くなるという状況ですので、ご自身やご家族が肺がんになることは珍しいことではありません。肺がんの治療は大きく分けて、①手術や放射線治療ができる、いわゆる根治が目指せる場合と、②根治は目指せないが症状の予防や緩和、生存期間の延長を目指して内科治療を行う場合があります。内科治療というのは「抗がん剤治療」のことですが、従来の抗がん剤とは異なる、「分子標的治療」や「免疫チェックポイント阻害薬」の登場によって、治療の内容や成績が大きく変わってきています。従来の抗がん剤治療は、手術不能進行肺がんの場合、無治療であれば半年のところを治療によって平均1年前後に延す程度の効果です。また食欲低下や白血球減少などの副作用もそれなりにあり、患者さんによっては治療をすることで逆に命を縮めてしまうこともありえます。分子標的治療や免疫チェックポイント阻害薬は副作用も相対的には少なく、効果も高く5年以上継続することも珍しいことではありません。ただしこれらの治療はすべての肺がんに効果があるわけではありません。
分子標的治療は標的となる遺伝子異常があるタイプの肺がんにしか効果がありません。具体的にはEGFR変異、ALK転座、ROS1転座というようなタイプの遺伝子をもつ肺がんでは、分子標的薬が治療の主役です。これらの遺伝子は肺がん全体の3割程度です。また免疫チェックポイント阻害薬はニボルマブ(オプジーボ)、とキートルーダ(ペンブロリズマブ)の2剤がありますが、前者は二次治療以降、後者は腫瘍のPD-L1(腫瘍の免疫に関与する分子)高発現という条件があります。難しい話になりますが、これらの薬がすべての肺がんに効果が期待できるわけではないと言うことです。またこれらの薬は全般的には副作用の頻度は少ないのですが、これまでとは傾向の異なる免疫に関連する多彩な副作用が報告されており注意が必要です。また薬価が非常に高額(ニボルマブを1年投与すると2000-3000万円)で社会的にも問題になっており、適応条件が今後さらに厳密になるかもしれません。「薬だけでは肺がんは治らない」というのが現在までの常識ですが、最近の薬の進歩を目の当たりにしていると遠くない未来に「薬でも肺がんが治る」時代が来るような気がしています。