保健の窓

婦人科がんと検診-婦人科がんの最近の動向-

鳥取県立中央病院産婦人科部長 皆川幸久

 

婦人科領域の主な悪性腫瘍には、子宮がんと卵巣がんがあります。子宮がんは子宮の頸部に発生する子宮頸がん(以下、頸がん)と体部(子宮内膜)に発生する子宮体がん(以下、体がん)に分類されます。かつては婦人科がんと言えば、子宮がん、それも頸がんが女性の死亡原因の上位を占めていましたが、その死亡率は徐々に減少し過去30年で約四分の一となっています。この主な原因には、治療技術の進歩もありますが、子宮がん検診の普及と共に婦人科がんの代表である頸がんが前がん病変(子宮頸部異形成)や早期がんで発見されることが多くなったことにあると考えられます。

実際、頸がんの治療対象も広範な手術や放射線治療が必要な進行がんは少なくなり、卵巣温存や子宮温存の可能な初期病変の占める割合が増加しています。一方、体がんは徐々に増加してきており、子宮がんの中で体がんが占める割合は30%を越え、過去10年間で実に2倍以上となっています。しかし、体がんではほとんどの例で早期または前がん段階(一部の子宮内膜増殖症)で不正出血がみられることから、初期がんで発見されることが多く、治療成績は比較的良好です。

卵巣がんは初期には自覚症状がないこと、子宮がんのように前がん病変の把握がほとんど不可能であることなどから、治療前の診断が困難な病気の一つです。卵巣がんの治療は徐々に進歩していますが、症例数も確実に増加しており、また、あらゆる年齢の女性に発生することから、早期発見のための努力が大きな課題となっています。

がん集団検診の目的はがんの早期発見と治療によって死亡率を低下させることにあります。また、その目的に適合するがんは、頻度が高いがんであること、早期発見の可能ながんである必要があります。その意味で子宮がん、特に子宮頸がん(以下、頸がん)は細胞診という比較的感度の高い検出法を用いるため集団検診に非常に適したがんであると言えます。頸がん検診はかなり広く普及し、確実にその成果を上げています。

実際、最近では前がん病変での検出例の割合が大きく、適切な管理と治療が進められています。反面、進行した頸がんの大半は子宮がん検診の未受診者で占められています。

このような未受診者に対する啓発と同時に、30歳未満の若い世代での頸がん発生が増加しており、これらの世代の女性に如何に検診を勧めてゆくかが大きな課題となりつつあります。

一方、体がんは増加しているがんですが、体部からの細胞採取が頸部に比べて困難なこと、細胞診の判定基準が頸がんにおけるほど明確でないことなどから、集団検診には不向きではないかという一部の批判もあり、検診の普及は頸がんに及びません。しかし、体がんの危険因子(不正出血、閉経前後、未経妊、肥満・高血圧・糖尿病などの特徴)を検診を受ける側が理解すること、実施する側が体部の細胞診の限界を十分理解した上で行う場合には検診の効果は十分期待できます。最近では、経腟超音波断層法による子宮内膜厚の計測も併用することが多く、体がんの診断精度も向上しています。

最後に卵巣がんに対する検診については、未だ確立した方法はありません。しかし、子宮がん検診の際に行われる内診が早期発見の糸口になり、経腟超音波断層法も早期発見に威力を発揮すると思われ、積極的に子宮がん検診に参加することが重要です。