Joy!しろうさぎ通信『第25回 日本小児麻酔学会総会in米子 「ハンディを持つ小児の麻酔の実情─障害児歯科日帰り全身麻酔の実際─」』

米子市 ながい麻酔科クリニック  多 喜 小 夜 


 令和元年11月16日から2日間、日本小児麻酔学会第25回大会が米子市で開催されました。この学会は、1965年に
国立小児病院(現在の国立成育医療センター)発足当時の麻酔科医長であった岩井誠三先生が発起人となって「小児
麻酔研究会」として始まり、1995年に「日本小児麻酔学会」となったものです。小児専門病院の先進的な小児周術期
管理を勉強でき、稀少な疾患について知る機会もある貴重な学会です。その一方、日頃のちょっとした小児麻酔に
関わる困りごとを相談できるようなアットホームな雰囲気もあります。

 今大会では、大会長の鳥取大学麻酔科教授 稲垣喜三先生から「ハンディを持つ小児の麻酔の実情─障害児歯科日
帰り全身麻酔の実際─」というテーマで教育講演の機会をいただきました。私一人ではこの大役を果たせないと考え、
鳥取大学歯科口腔外科の土井理恵子先生、鳥取県立総合療育センター(以下療育センター)歯科衛生士の高坂道子さん
にお願いして、3人で分担してそれぞれの立場から講演をするかたちとしていただきました。以下、土井先生、高坂
さんの講演内容を含めて、療育センターにおける障害児歯科日帰り全身麻酔を紹介します。

 障害児(者)歯科とは、知的障害、発達障害などで円滑な診療が難しい方、脳性麻痺や不随意運動などで姿勢の維持
が困難な方、歯科診療に極度に恐怖を感じる方など、特別な配慮が必要な方に対する歯科診療のことをいいます。患児
がリラックスできるようにキャラクターのぬいぐるみを吊るすなどの診療環境を工夫したり、弱い刺激の治療から始め
て治療に慣れてもらう(行動療法)、手を握る、大きなバスタオルで体を包む(体動コントロール法)などの方法を試
しながら、少しずつ段階的に治療が進められます。しかし、強い痛みのために緊急性がある場合や歯科侵襲が大きい場
合などでは全身麻酔下の治療が考慮されます。

 療育センターでは、歯科医師、小児科医師、看護師、歯科衛生士、麻酔科医師など、治療に関わるスタッフの協力に
より、2007年より日帰り全身麻酔下歯科治療が行われています。安全に治療できるように、1回の治療時間は1時間
以内とする、合併症などで全身麻酔にリスクがある症例は大学病院へ紹介する、などのルールのもと運営されています。

 私は麻酔科医師として術前、術中、術後の全身管理を担当しています。術前診察では患児のペースに合わせてできる
範囲で診察、術前検査を行います。特に、患児の好みや癖、医療に対する受け入れ状態をよく観察して麻酔計画を立て
ます。日帰り全身麻酔においては親(介助者)の理解が非常に重要です。術前の体調管理、術当日の絶飲食時間の厳守、
術後の体調管理や体調不良時の連絡等、親の看護力に大いに頼ることになります。十分時間をとって親にしっかりと説
明し、お互いに協力し合うチームの一員になってもらえるようなコミュニケーションを心掛けています。

 麻酔法については特別なことはあまりありませんが、麻酔導入時は患児のお気に入りのおもちゃなどを持ってきても
らい、みんなで歌を歌ったり、励ましたりしながら、患児ができるだけ穏やかに入眠できるように工夫しています。治
療後は麻酔から覚醒し、親(介助者)が看護できる程度に回復すれば帰宅としています。帰宅後は1〜2回電話で状態
を確認し、発熱などの問題がある場合には療育センターにもう一度来てもらうこともあります。

 療育センター小児科の先生方は術前評価や麻酔導入の補助、さらに術後も患児の体調が悪いときには麻酔科医ととも
に対応してくださるので大変心強いです。療育センターの看護師さんには、麻酔介助だけでなく、術前の患児の体調
チェックもしていただいています。鼻水が出ている、痰がありそう、など麻酔のトラブルの原因となりやすい患児の状
態をきめ細やかに評価してくださることが安全な全身麻酔につながっています。

 全身麻酔下歯科治療の適応となる患児とその家族の多くは、通常の歯科受診・治療が困難なため歯科受診を躊躇して
いたり、無理な歯科治療の経験から歯科に対する恐怖心が強くなっていたりすることが多くあります。辛く複雑な気持
ちを抱えている患児・家族にとって、療育センターの歯科衛生士さんは一番近い存在となって、患児・家族と医療チー
ムを繋ぐ役割を担っておられます。

 鳥取県西部歯科医師会では鳥取県西部歯科保健センターで障害者歯科診療を外来でされており、療育センターでの日
帰り全身麻酔下歯科治療の開始当初は、同歯科医師会障害者歯科運営委員会の先生方が交代で療育センターに来られて
歯科治療をされていました。2015年からは大学病院からの定期的な歯科医師派遣となり、ほぼ現在のスタイルが定着
しました。障害児歯科治療は、患児を中心に地域の医療者や多職種の支援者が力を合わせることで成り立っています。