Joy!しろうさぎ通信『第16回男女共同参画フォーラム 医療人を育む一歩から~医師の多様な働き方について~』

鳥取県医師会理事 男女共同参画推進委員会委員 來間美帆

 日本医師会主催・大分県医師会担当の第16回男女共同参画フォーラムが、本来開催予定であった
令和2年度から2度の延期を経て、令和4年4月23日にようやく開催されましたのでご報告させていた
だきます。例年は担当県の会場で開催されているそうですが昨今の新型コロナウイルス感染症の流行状
況を鑑み、当日は各都道府県医師会館と大分県会場のホテル日航大分オアシスタワーとをWebで繋ぐハイ
ブリッド形式で開催されました。今回の開催方法のおかげで、当県でも県医師会担当役員のみならず東・
中・西部の各地区医師会担当役員の先生方も出席が叶い、初めて私も参加させていただきました。当日は
「医療人を育む一歩から~医師の多様な働き方について~」をメインテーマに、午後1時30分から午後5
時30分まで、多岐にわたる講演・報告・総合討論がなされています。
 貞永明美大分県医師会常任理事の総合司会のもと、午後1時30分河野幸治大分県医師会副会長の開会宣
言の後、中川俊男日本医師会会長、近藤 稔大分県医師会長の挨拶に続いて、広瀬勝貞大分県知事が来賓挨
拶をなさいました。

 基調講演Ⅰ
 「日本眼科医会の男女共同参画─医会活動に女性が関わる意義─」
   日本眼科医会 会長 白根雅子
 ご講演は日本眼科医会において女性で初の会長に就任されている白根先生。日本眼科医会は眼科を専門と
する医師約14,900名が加入し、ほぼ全ての眼科医が日本眼科学会・日本眼科医会の両方に所属しており、眼
科医一丸となった活動ができる。診療科別では全医師数のうち眼科医は約4%で、診療科別女性医師の割合
は約42%と皮膚科、麻酔科に次いで3番目に多く、特に45歳以下の女性医師の比率が高い。勤務形態は女性
の開業医は少なく、勤務医・特に診療所勤務が増えてきており、病院での眼科医不足が深刻になりつつある
。医会活動の複雑化に対応するには多角的視点が必要であり、医師の働き方改革は多様な立場の意見や理解
なくしては達成困難である。このような理由から、本会はダイバーシティを推進しており、2021年に「ダイ
バーシティ推進委員会」へ脱皮させ、学会と連携して取り組みを始めている。例えば多様な人材を登用する
ため、医会に馴染む機会を増やし、コロナ禍以前よりWeb会議・グループチャット等を取り入れて時間のハン
ディを解消する試みを行っている。医師のWell beingは、日本の医療の安定的発展につながる─全ての学会・
医会組織にダイバーシティの浸透がなされることを願っている。

 基調講演Ⅱ
 「悠遠の男女共同参画─苦悩する心臓血管外科医─」
   大分大学医学部附属病院 心臓血管外科教授 宮本伸二
 心臓血管外科においては、マイノリティとしての女性医師の配慮と、増加する女性医師もしくは働く妻を持
つ男性医師への配慮が、今後より必要となってくる。男女共同参画を推進するためには、制度や意識改革に加
え、生殖医療・AI技術・ICT等の科学技術開発や導入が今後有力であると考えられる。大分県ではコミュニケー
ションアプリ “JOIN” の導入を進めており、これを用いて診療科内、他職種との情報共有を行うことで、情報
伝達時間が短縮され、的確な判断や指示が行われるため、時間外等の登院回数も減らすことができることが期
待される。このようなICTの積極的な利用が働き方改革には不可欠であり、男女共同参画にも繋がっていくもの
と考える。

 報告1
 「日本医師会男女共同参画委員会報告」
   日本医師会男女共同参画委員会 委員長 越智眞一
 令和2・3年度の男女共同参画委員会の取組みについての報告があった。
 ①会長諮問への答申「地域における男女共同参画の推進」
 ②男女共同参画フォーラム企画への意見具申
 ③『ドクタラーゼ』企画立案
 研修医や医学生に医療界全体について考える広い視野を持ってもらう・医師会への理解を深めてもらうことを
目的として発行されている冊子「医師の働き方を考える」コーナーでは、様々な医師の働き方をインタビュー形
式で紹介することで、若い方へのロールモデルを提示している
 ④調査
 「勤務医会員数・勤務医部会設立状況等調査」
 ⑤その他 制度の整備等
 ・短期間勤務正社員制度の導入、保育システム相談窓口の設置等
 ・新専門医制度においてライフイベントへの配慮を要望し、専門医制度整備指針(第3版)において、専門医
研修はプログラム制またはカリキュラム性において行うことが明記された

 報告2
 「日本医師会女性医師支援センター事業」
   日本医師会常任理事 神村裕子
 女性医師支援センターの事業内容についての報告がなされた。
 ①日本医師会女子医師バンク事業
 女性医師の就業・復職・再研修支援により、医師の多様な働き方をサポートしている。又、求人施設側へもコ
ーディネータ等によるサポートを行っている
 令和3年度実績:新規登録数625件、新規求人施設登録数715件、就業成立846件。
 ②女性医師支援・ドクターバンク連携ブロック別会議
 ③医学生、研修医等をサポートするための会
 ④地域における女性医師支援懇談会
 ⑤医師会主催の研修会等への託児サービス併用促進と費用補助
 ⑥女性医師の実情調査
 「女性医師の就業等に係る実態把握調査」を通して、女性医師に必要な勤務支援の提示

 シンポジウム1
 「わたしのベストポジション~ドイツからはじまる七転び八起き~」
   中津市民病院 心臓血管外科 漆野恵子
 現在、地域の中核病院で心臓外科医としてご勤務されている漆野先生。二人の子育てをしながらの勤務やドイ
ツへの臨床留学を経験し(当直の際の工夫、上司への術野に立ちたいという思いの伝え方なども)、留学中の病
気発症から一度は帰国され闘病されたのち、再びドイツで臨床医として研鑽を積まれた。一時は心臓血管外科医
を離れた時期もありながら、卒後20年を経た今、多くの方々と巡り会い、ご自身の目標に向かって働きやすく生
きがいのある道を切り開いてきた先生の数々の興味深いご経験を伺った。これから歩き始める先生方にも示唆に
富む体験であった。

 シンポジウム2
 「オール大分女性医師復帰支援への取組と必要性について」
   大分大学学長特命補佐(ダイバーシティ担当)・男女共同参画推進室長・医学部医学生物学教授・
   女性医療人キャリア支援センター センター長 松浦恵子
 オール大分女性医師復帰支援による大分県の人材育成・人材好循環を目指した大分県・大分大学(医学部女性
医療人キャリア支援センター、大分大学ダイバーシティ推進本部)・大分県医師会と医師会男女共同参画委員会
の取組みについて紹介された。①県下50病院と附属病院18診療科各々の女性医師数と女性医師や院長からのメッセ
ージ、勤務・保育環境、診療科毎の復帰支援プログラム等をまとめた「医師キャリアサポートブック」の作成②大
分大学女性医師の両立・キャリアアップ支援体制(“医学部リーダー研修会”、県内医療機関に勤務する “女性医師
交流会”、医学部5年生と附属病院勤務の女性医師との “キャリアパス相談会”、医学部1年生への男女共同参画講
義や医学部4年生への医師のキャリア教育とロールプレイを含む討論を行う “キャリア教育”、子育てをしながら働
く男性医療人の情報交換の場である“医療人パパの会(Penguins)”、“院内保育園や病児保育”)。また、2017~2021
年に実施された大分大学医学部学生の男女共同参画意識調査結果の報告があった。学生は政治や職場の分野では男性
が優遇され、一方学校や家庭生活では男女平等であると答えている。配偶者が同じ医療人だった場合の仕事の継続に
ついて、男子学生の結婚や出産に関わらずそれまでと同じだけ配偶者に仕事を続けて欲しいという割合は年々減少し
、結婚や出産を機に仕事をやめて欲しいという意見も一定割合存在している。女子学生は概ね70%が結婚や出産に関
わらずそれまでと同じだけあるいは時間を少し短くしても仕事を続けたい、また20~25%程度が出産を機に仕事をや
め成長したら再び仕事に戻りたいと答えている。育児・家事の取組みについては、近年は男女とも配偶者と一緒に取
組みたいという回答が90%近くを占めている。最後に、キャリアへの不安を払しょくし、キャリアアップの望める未
来を次世代の医療を担う若い人材に届けるため、安心して個々の能力を発揮できる医療界にするため、地域医療を支
えるために、地域全体での意識改革・環境整備を少しでも早く進めることが大切であると結ばれた。

 シンポジウム3
 「医師の働きやすい環境づくりに向けて~大分県における長時間労働対策と女性医師の復帰支援について~」
   大分県福祉保健部医療政策課課長 小野 宏
 大分県の医療政策の概要、医師の従事状況(人口10万人対医師数は287.1人で全国順位15位、二次医療圏ごとの医師
数は77%が大分市や大学病院のある中部・別府市の東部医療圏に集中している、診療科別では内科・小児科は全国水準
だが産婦人科は下回っている)、地域医療を担う医師の養成・確保(自治医科大と医学部地域枠医師の養成、特定診療
科対策)、医師の長時間労働対策と女性医師の復帰支援(女性医師短時間正規雇用支援事業、院内保育支援、県内医療
機関の復帰支援プログラム作成支援に要する経費助成など)について説明がなされた。

 最後に、次期担当県である二井 栄 三重県医師会会長の挨拶に続き、藤本 保 大分県医師会副会長の挨拶で無事閉
会となり、コロナ禍での大会運営のご苦労は如何ばかりだったかとお察し申し上げつつ、県医師会館を後にしました。