Joy!しろうさぎ通信『第15回男女共同参画フォーラムの報告 男女共同参画のこれまでとこれから─さらなるステージへ─』

鳥取県医師会理事  松 田 隆 子

日本医師会主催第15回男女共同参画フォーラムが、令和元年7月27日(土)仙台で開催された。会場は仙台勝山館、岡田克夫常任理事と共に出席、時間は午後1時30分より午後5時25分まで、参加人数は276名であった。
安藤由紀子宮城県医師会常任理事の総合司会のもとに、橋本省宮城県医師会副会長の開会宣言のあと、横倉義武日本医師会長、佐藤和宏宮城県医師会長の挨拶に続き、村井嘉浩宮城県知事が来賓挨拶をされた。節目の15回でもあり、男女共同参画がどのように進んできたか、また更なる問題点はあるのか、注目された。

 

基調講演「酸化ストレス応答と健康長寿と介護」

東北大学加齢医学研究所 遺伝子発現制御分野教授 本橋ほづみ

現在、世界の国々では急速に高齢化が進行中であり、特に我が国では2025年問題を控えて健康長寿の実現が喫緊の課題になっている。その実現のための重要な柱が、環境からのストレスに対する応答・適応機構の強化である。私たちは常に環境との関わりの中で生命維持をしており、多種多様な環境因子は、我々の寿命や疾患感受性などに大きく影響している。特に、生命体が進化の過程で、分子状酸素の利用能力を獲得しエネルギー代謝の効率を飛躍的に向上させた背後には、生体分子の酸化障害をいかに回避するかという重要な課題が生じることになった。私たちの生体における酸化ストレス応答の鍵になっているのが転写因子NRF2である。NRF2はDNA結合タンパク質として、生体防御に重要な数多くの遺伝子を制御している。NRF2の機能が低下すると、薬剤や環境汚染物質などに対する毒性の発生や、心筋梗塞や脳梗塞などでは組織障害が重篤化しやすくなる。最近、我々は、騒音暴露による内耳障害がもたらす騒音性難聴が、Nrf2欠損マウスで重篤化し、NRF2の誘導剤前投与により軽減すること、さらに、NRF2の発現が低い人では騒音性難聴のリスクが高まることを明らかにした。一方、早老症の患者におけるNRF2の機能不全、げっ歯類の平均寿命とNRF2活性の相関などから、NRF2が抗老化作用を有することも明らかになっている。演者は、我々の健康におけるNRF2の重要性を解説されながら、また、両親の介護を通して、「老い」の現実を日々肌で感じつつ、最近の研究内容を紹介された。

 

報告 1.日本医師会男女共同参画委員会

日本医師会男女共同参画委員会委員長 小笠原真澄

2018年・2019年度の男女共同参画委員会の活動について、今期の会長諮問は「男女共同参画の推進と働き方改革」であり、合計7回の委員会において議論を重ねる予定で、これまでに3回の委員会を開催された。今期、委員会の具体的な活動は以下の通りであると報告された。
1.会長諮問に対する答申の作成、提出
2.男女共同参画フォーラムに対する意見具申
3.『ドクタラーゼ』医師の働き方を考えるコーナーの企画立案
4.女性医師支援センター事業への協力
5.都道府県医師会における女性医師に関わる問題への取り組み状況調査

 

2.日本医師会女性医師支援センター事業

日本医師会常任理事 小玉弘之

平成30年度の女性医師支援センター事業の報告と令和元年度の事業について説明された。事業の中核である女性医師バンクは、広報活動の強化を行うとともに、都道府県医師会等との連携推進にも注力している。また、ブロック別会議では従来の女性医師支援状況の発表という形態から開催方法を転換し、テーマを特定した議論を行う形で試行している。大学医学部・医学会・都道府県医師会の合同で行った女性医師支援担当者連絡会では、合同で行うことで相乗効果があり、今後も継続的に取り組んでいく。

さらに、2014年に大学医学部・医学会を対象として実施した「女性医師支援に関するアンケート調査」をベースに、その後5年間における女性医師を取り巻く環境の変化を把握するため、再度実施し、現在も詳細分析を行っている。その他の企画についても適宜再構築に取り組み、女性医師支援策の一層の強化を図ると報告された。

 

シンポジウム 1.“新専門医制度”に対していだく期待と不安~女性研修医と女子医学生の立場から~

宮城県医師会常任理事 福與なおみ
   東北大学病院初期研修医2年目 横山日南子
   東北大学医学部医学科6年生 岩田彩加

新専門医制度が動き始めて2年目を迎え、これから専門医取得を考えている医師が、ライフイベントを理由に専門医取得をどうするか、悩み苦しむことがない専門医制度の在り方が望まれている。本講演では(1)カリキュラム制で専門医を取得した者として、(2)これから専門医取得のためのプログラムを選択する初期研修医として、(3)専門医取得を見据えた初期研修先を考える医学生として、の立場から新専門医制度に対する期待と不安を紹介された。専門医育成の意義を通して、真の意味の男女共同参画の推進とは何かを一緒に考えて欲しい要望であった。

 

2.医療界における男女共同参画は進んだか

宮城県医師会女性医師支援センター長 高橋克子

演者は男女共同参画フォーラムに、第1回から第15回まで欠かさず参加されており、その推進への熱い思いが伝わった。

今回、日本医師会女性医師支援センターが行ってきた調査をもとに2019年3月末WEB調査の結果を報告された。医学会の調査では、女性医師の割合が20%を超えている学会が4割近く占めた一方、85学会中女性医師の理事がいないのは35学会で、44学会で女性医師の理事就任割合は5%未満で、20%を上回る学会はなかった。評議員(代議員)は、女性医師がいない2学会を含め80学会中、20学会が5%未満、20%を超える学会は2学会だった。しかし、女性医師評議員数は、5年前に比べると増加した。大学調査では、医学部に勤務する医師のうち女性は27%を占めた。医師の短時間正規雇用制度は32校にあり、全校女性医師の適応例があった。学部内に女性医師支援・男女共同参画推進の組織がある大学は、5年前には70.8%であったが、今回81%と増加した。いずれのデータも5年前に比べ女性医師や割合が増加したが、微増にとどまらないよう今後も取り組みが必要である。保育の状況等の調査も報告された。

 

3.女性外科医の育成とワークシェア・ワークライフバランス

自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長 一般・消化器外科教授 力山敏樹

近年外科医の減少が著しい。臨床初期研修医制度が始まり、2年間ローテートの間に外科のきつさ・辛さを体験し、他科へ変更する初期研修医が後を絶たない。厚生労働省の試算では現在も未来も外科医は全国で5千人以上不足している。一方、女性医師数は年々増加しており、外科を志望する女性医師も増加傾向にある。従って、外科医の減少を食い止めるには、女性を外科に勧誘し女性外科医が仕事を継続できる環境を整えなければならない。

外科学会の女性医師の割合は8.2%、消化器外科学会は5.4%であるが、当科は所属医師39名中女性10名25.6%とその割合が高く、妊娠・出産・育児に取り組む女性医師も一定数存在する。子育て中の女性医師には、朝カンファレンス免除、当直・夜間呼び出し免除等の対応を取り、これらを含め、チーム制の導入、労働条件の明瞭化とフレックスタイム制度の導入、ワークシェア制度の導入、職場の意識改革、他職種への役割分担、家族の意識改革、休業後の再教育制度などに力を入れてこられたことを話された。各女性医師の外科医専攻も“十人十色”であり、各自の考えや要望を丁寧に聞きながら組織づくりをされてきたことなど、また、自分の意識改革とともに、社会が必要なのは“美しい妥協”であるとも話された。ご自身の上司・指導者としての能力・力量に感服した。

 

最後に、第15回男女共同参画フォーラム宣言が採択され、次期担当医師会の近藤稔大分県医師会長の挨拶に続いて、板橋隆三宮城県医師会副会長の挨拶で閉会となった。次回は令和2年5月23日大分で開催予定である。

第15回男女共同参画フォーラム宣言

日本医師会男女共同参画フォーラムが平成17年に初めて開かれて以来14年の活動で得た成果を基盤にし、医療においてもワークライフバランスが重要という意識を確信した。この活動のさらなる発展を図るために、男女を問わず医師の働き方改革を進めながら、国民の医療に大きく貢献できる段階へと進化させることを決意し、以下、宣言する。
一、多様な働き方を認め、男女を問わず豊かな医療人を育む
一、指導的立場の女性医師を増やし、2020.30運動の理念を医師会・大学・学会ともに連携して推し進め結果を出す
一、医師を目指すすべての人に対する、医育機関での公平な対応を求める

令和元年7月27日  日本医師会第15回男女共同参画フォーラム