Joy!しろうさぎ通信『新型コロナウイルス感染症に思う』

医療法人十字会 野島病院  松 田 隆 子


 2019年12月新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は中国湖北省武漢市から始まり、当初中国、その後はヨーロ
ッパ、アメリカにと世界中に伝播していきました。2月中旬北イタリア・ベネチアの世界的カーニバルがあと2日間の
開催を残して急遽中止になりました。日本では1月15日に初めて感染者を確認、屋形船内の宴会出席者や豪華クルー
ズ客船の乗船者の感染が報告され、その後感染者は日ごとに増えていきました。そして東京オリンピック・パラリンピ
ックが1年延期になる事態になりました。4月7日政府は非常事態宣言を発出、9日鳥取で初めてウイルス感染者が出
ました。人々は今年のゴールデンウィークは、県外へは出かけず外出自粛で過ごしました。まるで人々がどこにでも出
かけ交流しグローバルな社会を謳歌することに対し、どこにも安心な場所はないと突きつけているようです。
 この感染症拡大のため、多くの学会や集会が中止や延期になりました。残念なことに、本年第8回「日本医師会 赤
ひげ大賞」を受賞された湯川喜美先生の祝賀会が延期となりました。中部女性医師主催での開催予定でした。ここに、
湯川先生のお人柄などを紹介させていただきます。先生は鳥取大学医学部をご卒業され、ご主人とともに県立厚生病院
に勤務後、開業され現在も活躍されています。日医ニュースの記事によれば、先生は「病気を見る医者よりも、病人を
診る医者になれ」を座右の銘とされ、患者の訴えに耳を傾ける姿勢を貫き、開業医として地域医療の最前線で活躍され
ています。女性医師の少ない時代には、心無いことを言う患者もいる中で女性であることの特性を活かし、患者へのき
め細やかな愛情を注がれました。患者は超高齢者も多く、在宅・往診に加えて看取りなどにも携わっておられます。今
でも、積雪の多い冬季には自身の運転で患者宅まで駆けつけられるなど、患者家族に寄り添いながら診療を続けられて
います。私が先生とお会いしたのは中部で女性医師の会を立ち上げる時で全面的に協力を惜しまない姿勢に励まされま
した。医師会などの要職につかれた後も会合や研修会にもほぼ出席されています。先生は鳥取県の女性医師の誇りです。
 ところで、世界各国で極めて多くの死者を出した最もパンデミックなウイルス感染症は、インフルエンザウイルスに
よるスペイン風邪(スペインは第一次世界大戦時に中立国で情報統制がされずスペインでの流行が大きく報じられたこ
とに由来する俗称)です。1918年1月~1920年12月に世界で5億人が感染、死者数5,000万人と推計される人類史上
最悪の感染症で、米国ではパンデミックの最初の年に平均寿命が約12歳低下したとあります。日本でも、患者数2,300
万人、死者38万人、流行のピークは3回あり、1回目は患者数・死亡者が最も多く、2回目患者数は減少するが致死率
は上昇し、3回目は患者数・死亡数ともに比較的少数と報告されています。世界の流行の第3波(日本とずれており日
本の2回目)で、この時最初に医師・看護師の感染者が多く医療体制が崩壊し感染被害が拡大したとあります。このウ
イルスの犠牲者は、若年成人の致死率が高く日本男性21〜23歳、33〜35歳、女性は24〜26歳で、原因としてサイト
カイン放出症候群が若年の強い免疫システムを破壊することや、第1次世界大戦による過酷な兵役、軍需産業への動員、
妊婦の死亡率が高いことがあげられています。
 20世紀には次々に新しいウイルスが登場し、21世紀にはSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスやMERS(中東呼
吸器症候群)ウイルスであるコロナウイルスが発見されました。そしてこの新型コロナウイルス感染は、誰でも感染す
ること、伝播のスピードが速いこと、発症が不確定、サイレント肺炎、急変など、世界中の人々に恐怖を与えています。
2020年5月10日現在、世界感染者数400万人(米国130万人、スペイン、イタリア、イギリスが各々20万人)、死者
28万人で、日本では1万5,000人以上、死者600人以上となっています。
 新型コロナウイルス感染症に対して、医療従事者の医師、とりわけ妊娠中や子育て中の女性医師はその対応に大変だ
と思います。この感染症の最新の情報を正しく理解し自分で自分を守って行動して欲しいと思います。現在、人々はこ
の感染症を分析し治療薬も開発されつつあります。社会的、経済的な問題も山積しています。また、これからも新規な
あるいは薬剤耐性や突然変異した細菌やウイルスが出現してくることでしょう。それに対しての備え、素早い対応、共
存・共生についてを考えていかなければいけないと思っています。

参考資料
ウィキペディア 感染症の歴史、スペインかぜ 池田一夫、藤谷和正、他
:日本におけるスペインかぜの精密分析.東京健安研セ年報 2005;56:369−374.