Joy!しろうさぎ通信『後悔などせず、常にpositiveに!』

境港市 荒木医院 服岡泰司

 わが家は夫婦ともに医師の家庭で、二人の子供がいます。このたび、「女性医師がパートナーの
男性医師の立場から書いてみて貰えませんか?」との依頼で、私の方に執筆依頼が来てビックリし
たのですが、恥ずかしながらわが家での産前産後~育児の経験と今少し思うことを書いてみようと
思います。
 私たち夫婦は、現在内科開業医として二人とも現役で働きながら、中学生と小学生の二人の子供
を育てています。妻とは年は一つ違いで、専門は私が呼吸器内科、妻が脳神経内科です。卒後7年
目の大学病院での勤務医時代に結婚しました。当時とくに人生設計を話し合った記憶はありません
が、結婚して2年が過ぎた頃に第一子を授かりました。
 この妊娠を期に妻は医局を辞めて実家の医院(境港市)に入って働くようになりました。当時は
まだ妻の母が院長をしていたのですが、そろそろ一人ではしんどいなあという状況でしたので、妻
が産休に入るとそれぞれの医局へお願いして外来のバイトを派遣していただきました。両医局の教
授・医局長・バイトに来て下さった先生方には非常に感謝しております。しかし、私はこのとき育
児に殆ど役に立っておらず……、週2回ほど外来バイトのシフトには加わっていましたが、それ以
外は当然ながら通常の勤務・当直・外勤などをこなしていて、加えて妻は産休が明けても半年間は
実家にお世話になっていたので、その間はほとんど子供とも会っていませんでした。
 その後、私たち一家は米子市の私の実家で暮らすようになりました(※実は、私の実家が米子市、
妻の実家が境港市というお互いに地元で、家族の協力が得られるという恵まれた環境なのでした)。
妻は、毎朝幼い長男を車に乗せて出勤し、夕方には帰宅して長男に食事を摂らせて、お風呂に入れ
て、一緒に寝るといった生活サイクルになりました。私はというと、相変わらず通常の勤務をする
中で、たまに頑張って早く帰宅しても長男の入浴時間には間に合わず……、中途半端に早く帰宅す
ると長男が興奮してしまって全く寝付かず妻が不機嫌に……。外勤のない週末は長男を公園などへ
遊びに連れて出ましたが、妻は疲れていたのでしょう、三人で出かけることはほぼなかったような
気がします。なんだかすれ違っているところもありましたが、幸い両方の実家の家族にも支えられ
て長男はスクスクと育ち、2歳になると預かり保育を利用しながら一般の幼稚園へ通うようになり
ました。
 そうこうしている内に、妻が次男を妊娠しました。このときは、さすがに今後どうするのかを話
し合いました。妻の産休にあたって代診医を探せるのか? 再び医局に無理なお願いをできるのか
? また、長男も2歳になったばかりで二人の子供の世話をどうするのか? これは決断するしか
ないなと思い、次男が生まれるのに合わせて私も退局することを教授・医局長に相談しました。結
局、医局の事情もあって5ヶ月程残留することになったので、再び医局(呼吸器内科)からの外来
バイト派遣にお世話になってしまいました。本当に感謝の念に堪えません。
 医局を辞めた後は私も開業医生活が始まりましたが、医院経営の予備知識がゼロでわからないこ
とだらけ、さらに医師が3人になって当院のような規模で十分な給料をだせるのかという問題もあ
り、色々と悩み事がつきませんでした。最終的に、子供がまだ小さく当面は手がかかることを考慮
して、診療内容や規模は拡大せずそれぞれの収入が減ることを許容して、子育てに時間が使えるよ
うにしました。結果的に、医院の経営にも無理なく徐々に慣れていき、子供たちと接する時間も確
保できて、よかったのかなと今では思います。
 妻とは同じ職場で同じ医師として働いていますが、仕事を半々とは思っていません。そんなこと
を言い出したら不満ばかり溜まりますからね。それぞれができることをやる、相手が何かをやって
いるときはそれをできるだけ理解する(※仕事以外のことも含めて)、そうやって結果的に「2人
で仕事をすると助かるね~」となるのが理想だと思ってやっています。
 現在、私たち夫婦のスタンスは次のようです。妻は医療もがんばりつつ、やっぱり育児が気にな
る。私は育児も気になるが、医院の雑務に追われている。外来診療以外で言えば、妻は仕事とメリ
ハリをつけて子供の行事や運動部の活動に積極的に参加し、家事もこなしてくれています。一方、
私は子供の行事・活動にはときどきしか参加できませんが、主に医院の雑務を診療後や休日にこな
しています。お互いにたまには腹を立てたりもしますが、2人でやっているからこそ、今の生活が
成り立っていると思っています。
 長々とわが家の経験を書き綴りましたが、育児・介護などのライフイベントに遭遇したとき、そ
れ以前と同じ生活を続けることは困難だと思います。妻が30代半ば、遅れて私が30代後半で開業に
踏み切ったことは、それぞれにとって大きな決断でした。しかし、現在2人とも今の仕事・育児を
楽しんで日々を過ごしています。そう言えば、会社員であった私の父も私が生まれるタイミングで
都会の本社から地元にできた子会社へ移ってきたと聞いたことがあります。やはり理由は育児と介
護。同じようなことをやっているなあと思いながら、今なら父親の決断を理解でき尊敬もできます。
結局、最終的に選択の良し悪しを判断するのは自分なので、後悔などせずにpositiveに考え進めば
よいように思います。その際に、家族として方向性を決めて理解し合っていれば、どんなライフプ
ランであってもいつか良い思い出になるような気がします。