Joy!しろうさぎ通信『学び、考え、寄り添う─40年の歩みから若い先生方へ』

鳥取県済生会境港総合病院 脳神経内科 粟木悦子

 脳神経内科医として歩み始めてから、気づけば40年が経ちました。
 脳神経内科の疾患は、必ずしも完治が望めるものばかりではありません。しかし、そのような中
でも、診断と治療を積み重ねることで症状を改善し、患者さんの満足度を高める医療は提供できる
─その思いでこれまで診療を続けてきました。
 近年、医療技術の進歩は目覚ましく、脳神経内科の日常診療においても、抗体薬の登場が新たな
時代を切り開いています。
 片頭痛に対するCGRP関連抗体薬はその代表例であり、現在では国際的にも主要な治療選択肢の
一つとして位置づけられています。実臨床においても、発作頻度の減少にとどまらず、生活の質
(QOL)の改善を実感する症例が増えており、トリプタンの登場に続く大きな変化の時期にあるこ
とを実感しています。
 一方で、片頭痛はいまだに「たかが頭痛」と受け取られることも少なくありません。しかし実際
には、若年女性における主要な疾病負担の一つであり、患者さんの生活の質や社会的活動に大きな
影響を及ぼす疾患です。また、新しい治療が広がる一方で、薬剤費負担の問題など現実的な課題も
存在します。こうした状況の中で、疾患に対する正しい理解を広げ、適切な医療へとつなげていく
取り組みは、これまで以上に重要になっています。
 脳神経内科領域ではもう一つ、アルツハイマー病に対する抗体薬の登場も大きな変化といえます。
これらの薬剤は、病態進行そのものに介入する可能性を持つ疾患修飾薬として期待されています。
実臨床では、ご家族から「症状が良くなった」といった声をいただくこともあり、その意味を考え
させられる場面も少なくありません。未解明の点が多い領域ではありますが、確実に新たな一歩が
始まっていると感じています。
 医療の現場では、同じ疾患であっても患者さん一人ひとりの背景は異なり、教科書どおりにいか
ないことも少なくありません。その中で、その人にとってより良い方法を考え続けることが医師の
役割です。そしてそれは、一人で完結できるものではなく、多くのスタッフに支えられて成り立っ
ています。日々の忙しさの中にあっても、チームで患者さんに向き合うことの大切さを忘れずにい
たいと思います。
 近年は生成AIの進歩により、文献検索や情報整理といった作業が効率的に行えるようになってき
ました。学び方そのものが変わりつつある今、何に関心を持ち、どのように考え続けるかが、これ
まで以上に重要になっているように思います。
 医師としての道は決して平坦ではありませんが、その分、多くの学びとやりがいがあります。患
者さんから教えられることも多く、続けていく中で見えてくるものがあります。
 これから歩みを進める若い先生方、とくに女性の先生方には、診療・研究・家庭など、さまざま
な役割の中で悩まれる場面も多いかと考えますが、それぞれの形で自分らしい医師像を見つけてい
ただけたらと思います。無理に何かに合わせるのではなく、ときに立ち止まることがあっても、自
分なりのペースで学び続けていかれることを願っています。
 私自身も、「自分や家族が受けたい医療を提供する」という原点を大切にしながら、患者さんの
「治療満足度」をどのように高めていけるのかを考え続け、日々の診療に向き合っていく──その
姿勢を忘れずにいたいと思います。