Joy!しろうさぎ通信『女性医師支援に関する2つの会議の報告 ─令和3年度女性医師支援・ドクターバンク連携中国四国ブロック会議、および日本医師会女性医師支援担当者連絡会─』

鳥取県医師会理事  松 田 隆 子

女性医師支援に関する2つの会議が、新型コロナ感染症蔓延のためWeb会議で開催された。

Ⅰ.令和3年度女性医師支援・ドクターバンク連携中国・四国ブロック会議
 令和3年11月14日各県医師会館をWeb会議システム(Zoom)で結んだオンラインで開催された。
 本年度は愛媛県が主催県で、愛媛県医師会長村上博氏のご挨拶が大変興味深く以下に要旨を記載する。
 男女平等や男女共同参画社会と言われて久しいが、いまだに実現しないまま少し古めかしい表現となっている。それは男が
働き女は家庭を守るというやや陳腐化した社会規範がいまだに残っているからである。女性医師の前には子育てや介護という、
大きなハンディキャップがいまだに立ちはだかっている。想像以上に医師の世界は守旧的である。しかし、愛媛大学の新入医
学生の半数は女性であり、近い将来、愛媛県の医療の半分は女性医師によって支えられることになる。また、愛媛県だけの問
題ではないが、医師不足地域で働く医師の負担は大きくなっている。女性医師総活躍時代と診療科偏在の問題は切り離すこと
が困難であり、早急に解決していかなければならない。働き方改革を確実に実現していくためには、女性医師がどんな診療に
でも進出できる機会を用意していく必要がある。そういった時代の背景の中で、私達が今、取り組んでいる女性医師支援・ド
クターバンク連携事業が役に立つことを心から願っている。
 続いて、日本医師会副会長 今村 聡氏が、このブロック会議について、説明された。平成21年度より、全国各ブロックで
開催されてきた「女性医師支援センター事業ブロック別会議」は、令和3年度よりドクターバンク事業における各都道府県医
師会とのさらなる連携強化を目的に「女性医師支援・ドクターバンク連携ブロック別会議」として一新することになった。ド
クターバンクでは新型コロナワクチン接種の人材確保や相談窓口を通じて、ワクチン接種業務や保健所業務などに多くの医師
を紹介していただいた。各都道府県医師会と女性医師バンクとの連携を進めることは、医師確保に寄与する。今年度のテーマ
は女性医師のキャリア支援であり、女性医師の数は年々増加しており女性医師のキャリア支援は重要な課題である。

1 日本医師会女性医師バンクからの報告事項について    日本医師会常任理事 神村裕子
 日本医師会女性医師バンクは厚生労働省の指定を受け平成19年より日本医師会が実地する事業で、女性医師のライフステー
ジに応じた就労を支援し、医師の確保を図ること目的としている。
 女性医師バンクには、現在7名のコーディネーターが在籍し、求職情報の登録を行った医師に対し、きめ細かく求人・求職
のニーズが把握できミスマッチをなくし長期就業へと繋いでいる。運営状況については、成立件数は毎年増加、令和3年の成
立件数は600件を超え、令和3年10月現在医師登録者数2,751件、就業成立件数は累計で2,084件となった。新型コロナワク
チン接種人材確保相談窓口の設置や日本看護師協会の協力により看護師の紹介も行えるようになった。
2 各県医師会報告事項について
 各県医師会─鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、高知県、愛媛県の順に、①ドクターバンクの近
況報告、②復職・再研修支援体制について、③女性医師のキャリアアップ支援体制について、報告された。
①ドクターバンクは、へき地の医師確保を目的に、平成5年より厚生労働省の認可を受け、各医師会が医師の無料のあっせん
ができる。長期・短期の就業支援を行ったり、現在では、コロナワクチン接種時のスポットでの就業支援を行った。その活動
・状況は、中国・四国ブロックでは大変“異なり”、9県中徳島県が求人人数、成立件数で最も多く活発であった。本県では、
行政の鳥取県ホームページを広報手段として案内し、応募者の希望などに基づき、県と医療機関の間で、勤務条件、専門性な
どについて受け入れ調整を実施する。しかし求職医師が少なく、過去3年間は募集がない。
②各県医師会は、それぞれの県の大学病院、公的病院、民間病院を主に連携し、復職、再研修支援を行っている。各県とも、
乳幼児保育、学童保育、病児保育など育児のサポートは充実・拡大してきた。
③キャリアアップ支援体制は、コロナ禍で各県とも情報交換会や交流会の開催ができず困難な状況が報告された。鳥取県でも
『鳥取県女性医師の会』が2か年開催できずにいる。本県の医師会報の『しろうさぎ通信』に、女性医師の活動状況、体験談
(ロールモデル)を投稿していただき、女性支援をサポートしている。メールインタビュ調査やアンケートの利用もある。本
県では女性医師の意識調査のアンケートを行っている。

Ⅱ.日本医師会の女性医師支援センター・日本医学会連合共催 令和3年度女性医師支援担当者連絡会
 令和3年12月5日鳥取県医師会館でWeb会議された。
 神村裕子常任理事の司会で開会。冒頭の挨拶で中川俊男会長は、「女性医師の比率が増加し日々の活躍を評価する一方で、
出産・育児により職を離れるケースはいまだに見受けられる。人生の中で環境に変化が多いこの時期を、男女問わず育児を行
いながら就業を継続することができ、いったん職を離れた医師が復職しやすい環境整備が進み、多様で柔軟な働き方が実現す
ることを願う」と述べた。
 続いて、門田守人日本医学会連合会長は、「女性を支援するという言葉が果たして正しいのか。また、支援を受ける側に対
する潜在的意識は残っていないのか。我々が正面から向かっている問題点の裏にあるアンコンシャスバイアスを見逃さないよ
うに改めて考える必要がある」と指摘され、女性医師支援においてはホワイトウォッシュの発想を捨て、本物の解決策を探し
ていくことが重要になると考えを示した。

1 女性医師のキャリア支援   日本医師会女性医師支援センター センター長 今村 聡
 今や日本の女性医師は3割近くになっている。妊娠、出産、育児等女性のライフイベントにおいて2年を通じて90日以内の
研修期間の休止は認められている。中断した研修は8割近くが再開されている。専門研修医制度整備指針の対応状況では、特
定な理由(留学やライフイベント等)で専門研修が困難な場合中断できる。6か月までの中断であれば残りの期間に必要な症
例等を埋め合わせることで研修を延長しないですむ。また6か月以上の中断後研修に復帰した場合での、中断前の研修実績は
引き続き有効である。しかし、就業上、病院によっては時間単位の年休が取れない、時短勤務が認められない、移動により育
児休業手当の対象外になるなど、まだまだ困難なことが多い。今後も育児休業も含め雇用保険法の整備が必要である。
2 女性医師の多様な働き方─産業保健を中心に─   日本医師会常任理事 神村裕子
 医師の就業割合は、病院63.6%、診療所31.7%で多く、介護施設、大学院生、教育職、行政機関で3.2%、産業医0.4%で
ある。認定産業医有効者数67,352名のうち男性53,800名(79.8%)、女性13,552名(20.2%)と男性が多い。男性は50−
60代の割合が高く、少ないながら女性は40−50代が高い。20−30代では、他の年代に比べて女性の割合が高い。産業医の職
務は、健康診断後の指導や長時間労働、メンタル不調の面接指導など医学に関する専門的知識を必要とすることが多く、
また法律、社会構造の把握など多岐にわたる知識が必要で、女性医師に適していると述べられた。
3 医師の働きかた改革:日本医学会連合からの報告と提言」   日本医学会連合理事 岸 玲子
 日本には過労死に代表される長時間労働の歴史がある。日本の医師の働き方の実態では2017年現在でも過労死の認定基準
の1つとされる月80時間を超えて残業する人の職業別割合で、医師が最も多い。欧州に比べ日本の平均週労働時間は多くバ
ーンアウト(燃え尽き)、うつ、心房細動や心血管疾患のリスクが高くなる。日本の医師は医師法第19条に応召義務があり、
多大な仕事に追われている。問題解決のための方向性として、医師の数が適正か、地域偏在、診療科偏在の検討、PA
(physician assistant)の導入などが提起された。
4 各団体の取り組み
(1)札幌医科大学 西田幸代(札幌医科大学付属病院女性医師等就労支援委員、日本泌尿器科学会ダイバーシティ推進委員)
 コロナ禍で、女性医師の家庭での負担が増した。職位が高いほど不安が強くなりワークライフバランスが悪化した。女性医
師の抱える問題は社会の問題であり男性の意識改革が必要である。女性たちのレジリエンス(精神的回復力、しなやかな適応
能力)に期待している。
(2)日本外科学会 川瀬和美(外科医労働環境改善員会委員)
 2018年日本外科学会の「女性外科医の妊娠出産の対する意識とその実態に関するアンケート調査」をWeb形式で調査し、
2019年の日本内科学会、日本産婦人科学会の調査を対比させて発表された。日本外科学会では、他の2つの学会に比べ、年齢
が若い、優位に大学病院やその他の病院勤務が多い。常勤フルタイム勤務者が多い。週の平均労働時間が長い。各年代ともに
未婚者割合が多く、子供を持つ人が少ない、子供の数が少ない。3学会共通点は、不妊治療を受けている、妊娠出産を契機に
した離職率は20%に認められている。セクシャルハラスメントは約40−50%受けている。今後もこのような調査を行い改善し
ていく必要がある。
(3)兵庫県医師会 相馬葉子(兵庫県医師会理事 女性医師支援担当)
 女性医師支援として、女性医師再就業支援、研修医・勤務医のベビーシッター費用の一部負担、院内保育・病児保育や夜間
保育をしている。しかし、急な子供の発熱、時間外に子供を預けられない、“7歳の壁”などの問題がある。「イクボス大賞」
による職場環境の構築に貢献している上司、管理職の表彰をしている。
 以上、2つ女性医師支援に関する会議の報告をした。女性医師の働く環境は改善してきたが、女性医師リーダーの育成、日
本の医師全体の問題である働く方改革を含めてまだまだ問題は多い。