Joy!しろうさぎ通信『不妊治療を通して感じた性教育の重要性』

鳥取大学医学部附属病院女性診療科 佐藤絵理

 皆様、はじめまして。この度、原稿の依頼を受けて初めて、「Joy! しろうさぎネット」について知り
、様々な診療科の様々な年代の先生方のお話を興味深く拝読しました。自分は何を書こうかと考えまし
たが、やはり自己紹介と共に、自分の専門分野についてのお話させて頂こうと思います。
 私は松江市出身で、平成19年に鳥取大学を卒業して2年間の初期研修の後、鳥取大学産科婦人科学教
室へ入局しました。入局後に配属された関連病院も山陰両県内であったため、山陰から出たことのない
生粋の山陰人です。産婦人科医としては14年目を迎え、現在は大学病院に勤務して6年目になりました。
プライベートでは、今年2月に第3子を出産し、0歳から小学校3年生の3児の母でもあります。第1
子は産後4カ月、第2子と第3子は産後3カ月で仕事復帰しましたが、いずれも家族や院内保育所や医
局の先生方の協力のおかげで無理せず働くことができています。産婦人科は他の診療科に比べて女性医
師も多く、妊娠出産に直接携わるため、理解のある職場だと思っています。それでも、独身の時のよう
に働けないもどかしさと、仕事を免除してもらうことや同僚に協力してもらうことへの申し訳なさと折
り合いをつけながら働く毎日です。これまでにもたくさんの方が仕事と家庭の両立について寄稿されて
いましたが、私自身も子供が大きくなるにしたがって時間の調整が難しくなってきて、日々両立の大変
さを実感しています。
 現在、私は生殖内分泌分野を専門とし、主に不妊治療を行っています。私が本格的に不妊治療に携わ
るようになったのは、大学に戻ってきた6年前からでした。産婦人科では専門医を取得するまでは周産
期と腫瘍の分野に携わることは多いのですが、不妊治療はサブスペシャリティーとして選択しないと、
なかなか関わることのない分野です。大学に戻って見様見真似で診療をはじめ、様々な患者さんと関わ
る中で不妊治療の大変さを改めて感じました。自分自身は胚培養士の友人がいたこともあり、研修医の
頃から不妊治療についての話を聞くことも多く、「妊娠が難しくなってくる30代後半までに子供を2人
産みたい!」と家族計画をしていました。幸いなことにその夢は叶いましたが、不妊治療に来られる患
者さんの中には、5年以上も不妊の状態を放置していたり、月経異常があるのに受診せずに子宮内膜症
を悪化させて不妊につながったりと、「もっと早くに相談してくれていれば」と思う方が少なくありま
せん。近年「卵子の老化」といった言葉がマスコミ等で取り上げられるようになりましたが、高齢にな
っても不妊治療をすれば妊娠できると思っている人もおられます。「妊娠についての正確な知識があれ
ば」「産婦人科受診の敷居がもっと低ければ」と悔やまれます。不妊治療での経験と、生殖内分泌分野
の学生講義を担当する中で、性教育の重要性を強く感じるようになりました。今流行りのSDGsの実現
のために、Sexual and Reproductive Health and Rights(SRHR)=「性と生殖に関する健康と権利」
という概念も注目されており、みんながもっと性について考えるべき時期が来ています。最近は、幼児
期からプライベートゾーンについて話し、自分のことも自分以外の人のことも大切にするところから性
教育が始まります。そして、避妊などセックスに関連することはもちろん大事ですが、まずは月経周期
や妊娠など体の仕組みを自分のこととしてリアルに受け止め、理解することが非常に重要ではないかと
感じています。自分の体についてきちんと知って、何かあった時には気軽に受診できるかかりつけの産
婦人科を持った女の子が増えることを願います。また、性別に限らず、性に関することをきちんと相談
できるパートナー関係を築ける大人が増えてほしいと思います。そのためにも、私たち産婦人科医の役
割はとても重要であり、今後何らかの形で性教育に関わっていくことが、今後の目標になっています。
まずは、自分の子供たちへの「おうち性教育」をどのようにしようか考え中です。
 最後に宣伝になりますが、この春に新しく開設されたスポーツ医科学センターで女性アスリート外来
も担当しています。まだ患者さんが少ないため、スポーツをする女性の月経関連の症状でお困りのこと
があれば、ぜひご相談ください。産婦人科への抵抗が強そうな中高生も受診しやすいのがメリットだと
思いますので、よろしくお願い致します。