Joy!しろうさぎ通信『ごく私的な働き方改革』

鳥取県立中央病院血液内科 小村裕美

 自分のこれまでを振り返ると、「いきあたりばったり」と「生真面目」という言葉に集約される気がします。
 仕事を始めたばかりの頃、上司からロールモデルをもつと良いよと言われましたが、休みも関係なく仕事や研
究を精力的にこなしておられる先生や、仕事もプライベートも充実させている先生など、すごいなとは思うもの
の、要領の悪い自分には真似できる気がしませんでした。
 結局、目の前にある業務を、計画性もなく、成り行きに任せてひたすらこなすといった、効率化や時間管理と
いった概念からは程遠い働き方しかできず、結果として仕事が長時間化する要因となっていました。四六時中仕
事をしていたわけではなく、自分のために使える時間もしっかりあったのですが、病院からの電話には必ず対応
し、休日も担当患者を回診していたので、常に意識が病院に向いている感じだったと思います。
「働き方改革関連法」が2018年に公布された時、正直言って他人事でした。長時間の労働が規制されるのは、大
事だと思う反面、これを守ると仕事が回らないのではとか、闇残業が増える結果になるだけでは、などと思った
ものです。
 自分の中で流れが変わったのは2020年4月、院長から「年次有給休暇の確実な取得」を院内に周知し、取得さ
せるためのタスクフォースに任命された時でした。ちなみにこの時、時間外勤務削減のための具体策を考えるタ
スクフォースも別に立ち上がりました。
 伝えるためには自分が正しく理解しないといけないと思い、年次有給休暇について調べ始めたのですが、労働時
間や休暇についての知識が不十分であることに、ようやく気が付くことができました。なにしろ最初の頃は、年次
有給休暇を最低5日取るというのが、自分にとっての権利ではなく、義務であるかのように感じたくらいですから

 ちなみに働き始めたとき、時間外や休暇の取り方について教えられることはなく、自分から聞きに行くという発
想もありませんでした。諸先輩方からは、時間外を申請しないことが美徳のように言われたり、研修医は24時間連
絡がついて当たり前と言われたり、医師には労働基準法は当てはまらないと言われたりしたのですが、あれが冗談
だったのか本気だったのか、いまだによくわかりません。今なら疑問に思えばネットですぐに調べられますが、当
時はそういった情報に行きつくまでのハードルが高く、医者の世界はそういうものなのかと、言われるがまま納得
していました。
 タスクフォースの業務として、年次有給休暇の取得をためらう理由についてアンケートを行いましたが、代理で
きる人がいない、仕事が忙しい、有給休暇を取りづらい雰囲気があるというのが上位に来ました。初めの2つは人
員確保やタスク・シフト/シェアの導入など、有効な手段がわかっていても、解決するためには時間がかかると思
われる要因でしたが、3つ目に関しては、上司は部下が年次有給休暇を取るよう管理しないといけない、とたびた
び発信したことで、多少は意識改革のお手伝いができたのではと思っています。
 さらに、2021年4月からは病院の方針として、休日の回診等は待機医が行う、面談や委員会も時間内に行うと
いう方針が打ち出されました。これは、2024年4月からの「医師の働き方改革」を見据えてのことです。当院の
血液内科も待機制に踏み出しましたが、正直、自分の受け持ち患者だけを見ている方が楽だと思わないでもないで
すし、面談や委員会を時間内に収めても、別の業務が時間外に回っているのが現状です。ただ、そうして自分の仕
事を手放さなかった結果が今なので、今後は更なる効率化、タスク・シフト/シェアを進めたいと思っています
 血液内科は、じっくり患者さんにかかわることができる点が私の性に合っていたため長く続けてこられましたが
、世間的には大変そうとか、忙しそうというイメージを持たれがちです。かつて血液内科医は絶滅危惧種の朱鷺に
も喩えられ、どうすれば新しい人が増えるだろうという、学会のシンポジウムまで開かれましたが、そこでの結論
は「忙しいと言わない、疲れた顔を見せない」というものでした。あの時は忙しかろうが学生・研修医の前では表
情を取り繕え、というニュアンスで結論を受け取りましたが、きちんと休暇を取ることで、本当の意味で疲れた顔
を見せないことが、これからは大事なのだろうと思います。そしてそのために、少しずつでも働き方改革を進めて
いきたいと思う今日この頃です。