Joy!しろうさぎ通信『持続可能な医療のために』

米子市 ふくい内科クリニック 大倉裕子

 4年前に2年弱、アメリカ、オハイオ州で生活しましたが、風邪のオンライン診療が1万5千円
程、胃カメラが10万円以上と、日本と比べものにならない位、医療費が高く衝撃を受けました。現
地の方は風邪などで受診せず、ドラッグストアで市販薬を購入して治す方が多いようでした。医療
機関受診についても加入している保険会社が提携している病院でないと保険が下りない仕組みにな
っています。救急車も有料です。外来見学させて頂いたシンシナティチルドレン病院の消化器外来
の医師一人あたりの患者数が6-7名程度と少なく、時間をかけて診療を行っておられ日本との違
いを実感しました。脂肪肝に関する臨床研究を行った際に、腹部CTを撮った全患者のうちアフリカ
ンアメリカンの割合が3%と少ないことが分かり、患者さんのバックグラウンドに関係なく基幹病
院に紹介状1枚で紹介できる日本の状況は、必ずしも「当たり前ではない」という事を再認識しま
した。

 アメリカ滞在期間の後半、コロナの流行が始まりました。毎日のようにCDC(アメリカ疾病予防
管理センター)から感染状況の情報に加え、国民に向けて生活上の注意点が出され、買い物の回数
を週1回に減らし、買ってきた生鮮食品を洗剤で洗ったり、ドアノブを消毒したりするという知人
達のお話をお聞きし、新たな感染症に対する恐怖に加え、「自分の身は自分で守る」という日頃の
意識の高さを感じました。アメリカでは、皆が質の高い医療を受けられる訳ではなく、予防医学や
セルフメディケーションが進んでいます。一方、日本では、医療過疎の問題はありますが、国民皆
保険や高額医療制度、自由開業医制など様々な医療制度によりある程度均質なエビデンスに則った
医療を受けることができます。しかし、財源やマンパワーは有限であり、少子高齢化、人口減少が
進行している日本では、今後、現行の医療制度が立ちゆかなくことが予想され、喫緊の課題とも言
えます。私たちの次の世代が、必要な医療や福祉を受けられるよう、「持続可能な医療」を考える
上で、「かかりつけ医」制度や「予防医療」「健康教育」は重要なキーになるように思いますし、
医師会の果たす役割も大きいと思います。

 人類は、食べ物を増産し、医療を発展させ80億人まで増えています。その反面、地球環境問題や
食糧問題、戦争、感染症など多くの課題があるのも事実です。今、高校生の長女が第一線で働く時
に、果たして世界はどのようになっているか、少なくとも課題は少なくなることは無いでしょう。
生物学的には、「増えすぎた」人類の人口減少は、自然な経過である、と言う意見もあります。少
子高齢化が進む日本の対策は、自国のみならず世界的にも大きな意味を持つと言われて久しいです
が、持続可能な医療についても、国任せではなく、それぞれの医療圏で、行政や市民と協働で今後
も取り組んでいく必要があると思います。

 患者さんを目の前に悪戦苦闘している毎日です。最近まで素潜り漁をされていた80代の患者さん
が紹介受診され、経口剤追加してインスリン離脱され、「生きる元気が出てきました」とにこにこ
しながら帰って行かれました。2型糖尿病ですがインスリン枯渇し、インスリン4回注をされてい
る認知症が進行した80代の患者さんは、長男さんを巻き込んで埋め込み式血糖測定器を導入して、
長男さんから安心して仕事ができます、とおっしゃって頂きました。妊娠糖尿病の患者さんをご紹
介頂くことも多くなっています。1日3個のアイスやジュースをやめられず、いくつもの薬を飲ん
でおられる大柄の患者さんや、「お酒は絶対減らせません」と断言する飲み屋のマスターさんもお
られ、無力感を感じることもありますが、自分の専門をフィードバックできる環境をとてもありが
たく思っています。

 一方で、高校生の長女やその子ども達は、将来、今と同じような医療や生活を享受することが難
しくなっているかもしれない、という思いが強くなっていることも確かです。
 今日、若い世代の中には、自分の興味、優先順序を明確に持ち、アプローチしていく若者が増え
ているように感じます。身近でも、迷いながらも公務員から転職した女性や、都会からIターンし
て起業した女性がおられ価値観が多様化しているのを感じます。フランスの思想家、ジャック・ア
タリ氏がNHKインタビューで、今、世界を変える最も活発な力は女性の力で、日本でも女性の力が
多くのものをもたらすだろうと述べていました。持続可能な医療を考える上で、女性医師の働きも
重要なキーになるかと思います。今回、西部医師会糖尿病地域連携パス委員に声をかけて頂き、お
引き受けさせて頂きました。果たして、どれだけのことが出来るか不安はありますが、医師会の先
生方のお役に立てればと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。