Joy!しろうさぎ通信『鳥取県立中央病院は女性医師を大切にしているでしょうか』

鳥取県立中央病院 院長  日 野 理 彦

現在、当院には16名(全医師83名中16名:19.3%)の女性医師が常勤医として勤務しています。その内7名は子育て中です。ワークライフバランス(WLB)の視点から女性医師を十分に支援できているか検証が必要です。

Ⅰ 育児休暇後の女性医師の職場復帰支援

鳥取県立中央病院は女性医師が出産・育児の後に職場復帰されることを支援しています。2名の女性医師が復帰を果たして、現在は常勤スタッフとして通常勤務の形で研修をしています。

復帰のルートは大きく2つがあります。一つは直接或いは間接的に当院に復帰の意思を伝えていただくこと、二つは鳥取県の復帰事業に申請することです。

それから先は相談の上、好ましい復帰プランと雇用形態を決めていくことになります。いずれにしても鳥取県の復帰事業の対象になるか否かの判断をまずいたします。
鳥取県の復帰事業として「鳥取県医師登録・派遣システム(鳥取県ドクターバンク)」の中に「子育て離職医師等復帰支援コース」があります。これは子育て離職後に職場復帰希望の医師で条件に合致すれば鳥取県の常勤或いは非常勤職員として自治体立病院、県立病院、鳥取大学等で復帰研修をする制度です。研修期間は最大1年ですがある程度柔軟な対応が期待できると思います。連絡先は鳥取県福祉保健部医療政策局医師確保推進室(電話0857-26-7195)です。詳細はこちらへお問い合わせ下さい。
当院は県立病院でありますので、復帰研修病院でもあります。当院に直接ご相談いただいた場合には迅速に鳥取県庁の担当者と協議して復帰プランや雇用形態を提案することができます。
当院は臨床研修病院として高い評価を受けている病院です。初期研修や後期研修の指導体制ができている病院です。指導体制とは研修カリキュラムが充実していること、指導医に熱意があること、症例に恵まれていることです。復帰研修の場としては良い条件だと思います。
当院の復帰研修プログラムは後期研修プログラムに準じるものになっていますが、実際には希望や状況に応じて対応しています。これまで、相当な臨床実績を持つ女性医師が復帰研修の対象になっており、ある程度の期間、臨床を体験する事でかなり早く臨床感覚を取り戻して、通常の診療ができるようになっています。このことからすると厳密なカリキュラムに従うのではなくて、指導医と相談しながら実務を積んでいくやり方が良いように思います。
1名の女性医師は卒後約10年のキャリアがあって、既に一人前の専門医として勤務しておりました。育児のための離職期間が3年間でした。復帰に当たっては既に専門医であり、離職期間が短いので短いウォームアップ期間で常勤並みの仕事が可能と判断しました。同門の同僚の支援もあってかなり早く復帰できました。
他の1名の女性医師は4年間の医師生活のあと6年間の子育て離職期間があり、専門医資格を取得していない状況で復帰を決意されました。約9ヶ月間、非常勤県職員として研修し、仕事に慣れてきたところで指導医と相談の上、全日勤務になりました。只今、専門医を目指して奮闘しています。
復帰研修の目標は離職前の診療能力を回復する事になると思います。離職前の実力と離職期間が診療能力回復までに要する期間を決めるようです。その後の修練の考え方はどなたも同じ事だと思います。
女性医師職場復帰の経緯を診ていると、ご本人のやる気と指導医の責任感が復帰の成否を決める様です。やる気のある女性医師と熱意と責任感のある指導医が当院にいてくれて復帰事業が順調に進行している事に感謝しています。

Ⅱ 院内保育所

平成21年に院内保育所を開設し、通常保育と病児・病後児保育をしています。子育て中の7名の女性医師の中で、現在院内保育所の利用は通常保育2名、病児・病後児保育1名(不定期)の計3名でした。女性医師のために少しは貢献していると思います。利用が多くないのは、育児に家族の支援が得られる人が多いと考えられます。病児・病後児保育について、当院には小児科医が常駐しているので心強いと言われています。
夜間保育は週2日実施しています。夜勤看護師の利用がありますが、医師の利用は殆どありません。医師の場合、緊急の夜間呼び出しなどでは予約制の夜間保育は利用できないのでしょう。一部の育児中女性医師から聞いた事ですが、夜間の緊急呼び出しの際に保育所が子どもを預かってくれるシステムがあると助かるとのことでした。工夫がいりますが今後検討するべき事と思います。
26年4月から院内保育所を拡充して50名が利用可能になります。受入人数の拡大と共に受入条件の拡大を検討しなければなりません。

Ⅲ 他の病院との比較

女性医師を大切にする先進的病院では当直免除、夜間呼び出し免除、正職員短時間勤務など様々の優遇策を取り入れています。当院ではそのような要望が形を取って出されていないのを良いことにして積極的な女性医師優遇策を提案していません。
ところで、女性医師のための支援策に関するある調査で次のような項目が挙げられていました。妊娠時の当直免除、産休中の代替要員、産休中の身分保障、育児休業制度、育児休業中の代替要員、育児休業中の身分保障、職場内保育所・託児所です。実は当院の職員についてはこれらの項目はすべてクリアしています。調査報告では、これらの項目の中で産休・育休中の代替要員を確保することが最も困難とされていました。代替要員がいるとしたのは約10数%でしかありませんでした。医師不足の状況では納得できる数字です。しかし、当院は鳥取大学の関連病院であり、殆どの診療科は鳥取大学から派遣された医師で構成されていますので鳥取大学各医局のご配慮によって、産休・育休の間は代替の医師を派遣して頂いているのです。当然のことながら、県立病院でありますので産休・育休中の身分保障は公務員として保証されています。そうしてみますと当院は女性医師が働く病院として他の病院と比較してもなかなか恵まれた環境であるといえるのではないでしょうか。

Ⅳ 役職

当院で診療科長の立場にいる女性医師は1名のみです。男女共同参画の観点からは先進的状況とはいえません。県立病院の立場としては進んで女性医師を登用していく意識を持ちたいと思います。

Ⅴ 結語

これまでみてきたところでは当院は必ずしも女性医師が働きにくい環境ではないといえるのではないでしょうか。そのことをもっとアピールして良いと思います。改善点はたくさんあるでしょう。要望は個別性の高いものがありますので、対応する我々に柔軟性が求められていると思います。何よりも女性医師の声を聞いてそれに基づいて対処していくことが大切と認識しています。