Joy!しろうさぎ通信『それぞれのバランスで支え合う』

鳥取大学医学部附属病院 形成外科 陶山淑子

 私は形成外科医として鳥取大学に勤務しています。日々の業務の中、医師としてのやりがいや責
任を感じながらも、自分の働き方について考えることがあります。
 医療の現場では、結婚・育児と仕事を両立している医師と、私のように育児をしていない医師が
ともに働いています。それぞれ異なる背景を持ちながらも、同じチームの一員として役割を果たし、
協力し合って日々の診療を支えています。育児をしながら働く同僚の姿には、家庭での多くの出来
事に対応しながら時間的な制約のなかで誠実に臨床に向き合う姿勢に敬意を抱いています。
 一方で私は、緊急呼び出し、長時間の手術にも比較的柔軟に対応できる立場にあり、そのことが
組織の安定に貢献できているのではないかと感じています。もちろん、大変なことも多々あります
が、形成外科は自分で選んだ診療科であり、自分の選択なので誰かのせいにはできないと思い、形
成外科を続けて現在の働き方で過ごしています。
 とはいえ、常に前向きに働けるわけではありません。育児と仕事を両立しながら成果を上げてい
る同僚の姿を見て、育児をしていない自分が、仕事においても十分に結果を出せていないと感じ落
ち込むこともあります。また、「ワークライフバランス」という言葉が広く語られる中で、「ライ
フを充実させてバランスを取らなければならない」という焦りを感じた時期もありました。しかし、
私は器用な方ではないので、目の前の業務をこなすことで精一杯で、気づけば慌ただしく日々が過
ぎていったというのが実情です。
 そのなかで思ったのは、「ライフの充実」は義務ではなく、誰かの基準で測るものでもないとい
うことです。一般的に言われるライフではなく、「ワークがライフ」という生き方もあると受け入
れました。また、ライフとは結婚や育児に限らず、趣味や友人との時間、一人で過ごす時間など、
さまざまなかたちがあります。人生の充実とは人それぞれであり、自分が判断するものと感じてい
ます。
 医師としての責任を果たすという前提のもとで、その人の状況や希望にあわせて勤務日数を増や
す・減らすなど調整するという選択肢もあります。もちろん、給与に反映される部分もありますが、
それも含めて納得のいく働き方であれば、尊重される選択のひとつです。こうした柔軟な働き方が
認められることにより、多様な人材が医療の現場で長く活躍できる環境が整っていくのだと思いま
す。
 大切なのは、それぞれが選んだ働き方が、チームや組織の中で調和し、互いに補い合える体制で
あることだと思います。個人としてのワークライフバランスだけでなく、集団としてのバランス、
すなわち「チーム全体として継続できる体制」が、持続可能な医療の鍵になると感じています。
 ライフイベントは、思い通りに実現できるものではありませんし、仕事に生きる人生にも、外か
らは見えにくい葛藤や犠牲があります。医師という職業は、個人の生き方が働き方に直結します。
そして、それぞれ異なる人生を歩みながらも、医師としての患者さんへの責任があることは変わり
ません。だからこそ、制度の整備だけでなく、互いの違いを認め合う姿勢が、本当の意味でのチー
ムワークにつながるのではないでしょうか。