保健の窓

人生100年時代の健康と生活習慣

鳥取大学医学部 健康政策医学 黒沢洋一

死亡原因の上位に認知症

  リンダ・グラットン氏らの著書「ライフ・シフト」では、先進国で2007年に生まれた子供の2人に1人が104歳まで生きる見通しで、人生100年時代は驚くべきスピードで進行していると述べています。日本の場合はさらに長寿で、2007年生まれの半数が107歳まで生きると予測されています。世界保健機構(WHO)が世界の国々の死亡状況の比較を行っています(WHO Global health estimate 2016)。それによると、貧困や内戦に苦しむアフガニスタン、ソマリア等の発展途上の国々では、死亡原因の上位に、呼吸器感染症や下痢性疾患のような感染症が占め、乳児をはじめとする子供がその犠牲となっています。このような乳児死亡率の高い国は平均寿命も極端に短くなります。一方、人生100年時代を迎えつつある先進国全体の死亡原因は、心疾患、脳卒中、がん、認知症です。先進国においての死亡原因の上位は、感染症ではなく、加齢や長年の生活習慣に関連した疾患です。ここで、注目すべきは、認知症が死亡原因の上位に入っていることで、人生100年時代の象徴であるといえます。日本も他の先進国と同様の傾向にあります。    

 

 

長寿化に適した行動必要

 前回紹介した、「ライフ・シフト」では、「様々な研究によると、加齢により脳の機能が低下するペースは、約3分の1が遺伝的要素で決まるが残りは生活習慣で決まる」とし、人生100年社会において幸福な人生を送るため、健全な生活習慣を実践して明晰で健康な脳を保つことが必要であるとしています。世界保健機構(WHO)は、2019年に認知症を予防するのにもっとも効果がある生活習慣を以下のように紹介しています。①定期的な運動 ②禁煙 ③お酒を飲みすぎない ③体重のコントロール ④ヘルシーな食事 ④血圧・コレステロール・血糖値を正常に保つ  

これらは、心疾患、脳卒中、がんなどの予防としてこれまで推奨されているもので、生活習慣改善により生活習慣病を予防することは、認知症の予防にもつながるといえます。これを裏づけるように、イギリスでは、近年、認知症有病率の低下がみられ、その要因として運動・食生活等の生活習慣の改善による心疾患の減少の関与が推測されています。では、私たちの生活習慣はどうでしょうか。「ライフ・シフト」の提言を紹介します。-あなたが何歳だろうと、今すぐ新しい行動に踏み出し、長寿化時代の適応を始める必要がある。