保健の窓

日本人と糖尿病との切っても切れない深い関係

鳥取県立中央病院 糖尿病・内分泌・代謝内科 楢﨑 晃史

サルコペニアと糖尿病

 皆さんは「サルコペニア」という言葉を聞いたことはありませんか?「サルコペニア」とはギリシャ語で筋肉を意味する「sarx」と喪失することを意味する「penia」を組み合わせた造語で、加齢や病気のため「筋肉の量が減少すること」により「筋力の低下が起こること」、更にそれにより「身体機能の低下が起こること」を指します。内閣府の平成30年版高齢社会白書によれば、平成29年の時点で日本人の高齢化率(65歳以上人口の割合)は27.7%、75歳以上の後期高齢者に限定しても13.8%に達しており、世界でも類を見ないほど急速に人口の高齢化が進んでいます。平成27年の時点で後期高齢者のうちの9.0%が要支援認定、23.5%が要介護認定を受けており、高齢者では身体機能の低下により日常生活に何らかの支障を来す人が増えるという現実があります。つまり日本の様な高度高齢化社会は、高度サルコペニア蔓延社会とも言い換えることができます。今年は11月12日(月)~11月18日(日)が糖尿病週間ですが、「サルコペニア」がテーマとして掲げられています。「サルコペニア」と糖尿病との間に一体どの様な関係性があるのでしょうか?次回小欄で、そのからくりに迫ってみたいと思います。

 

 

高齢化社会と糖尿病

 糖尿病は、医学的には「インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群」と定義されます。インスリンは膵臓で作られる物質で、主に肝臓、筋肉、脂肪組織で働いています。筋肉では血液中のブドウ糖を取り込み、エネルギーとして利用し、筋肉を動かす際にインスリンが欠かせません。ところが、「サルコペニア」が進行すると、筋肉の量が減り、エネルギーを使う場所が減ります。また「サルコペニア」が進行すると、筋力の低下から身体機能の低下が起こり、身体活動そのものが減少し、ますますエネルギーは使われなくなります。しかも加齢に伴い膵臓も衰え、インスリンを作る力も衰えてきます。そうなるとエネルギーの停滞が起こり、血液中のブドウ糖は効率よく筋肉内に取り込まれなくなります。血液中のブドウ糖、即ち血糖が筋肉に取り込まれなければ、血液中のブドウ糖濃度、即ち血糖値は高くなります。平成29年の国民健康・栄養調査によれば、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は加齢と共に増加し、70歳以上では男性の25.7%、女性の19.8%を占めると報告されています。人口の高齢化が進む日本で糖尿病が増加する原因の一つが「サルコペニア」なのです。