保健の窓

胸部症状の受診はお早めに

鳥取県立中央病院 心臓内科部長 那須博司

killer disease

 胸部症状には一刻を争う重篤な疾患が含まれている場合があります。厄介なことに、突然発症するものも多く、前兆さえないものもあります。胸痛、息切れ、動悸などの自覚症状は、その始まりとなります。医療機関の受診が適切な時期に行われなければ生命を脅かされる事態となります。状態の急変が明らかであれば、他者が救急搬送を依頼するとは思います。でも一番早いのは、自分が救急車の搬送依頼、あるいは自ら出向いて医療機関にかかることです。主な疾患群は、急性冠症候群、致死性不整脈、胸部大動脈瘤破裂、解離性大動脈、血栓性肺塞栓(エコノミークラス症候群)、食道破裂、等々です。これらの疾患は、即刻入院、即刻治療(緊急手術、緊急処置)になります。典型的な症状ですと、我慢できるような症状ではありませんから、発症直後の救急搬送となります。しかしながら、個々の症状は千差万別で、非典型例では、驚愕するような所見を抱えたまま歩いて来院される方もあります。これを逆に救急部門の医療機関の側からはkiller(キラー)diseaseと呼ばれ恐れられています。見落とさないよう鋭意努力しています。

 

 

 

 

急性冠動脈症候群

 胸部疾患のkiller diseaseの中でも一番多いのは虚血性心疾患、中でも急性冠動脈症候群といわれる病態です。心臓の筋肉への栄養血管を冠動脈といいます。冠動脈の動脈硬化の進行に従って、血管内膜の脆弱性も進行します。血管内膜の破綻が発生すると、運が悪ければ、即刻血栓性閉塞を起こし、前触れのない急性心筋梗塞の発症となります。では、運がよかった場合はどうか?冠動脈病変部は血栓を抱えたまま、血液は流れています。時々、血流が途絶あるいは低下して症状が出現します。症状が強くなかったり、長引かないケースもあります。ここでためらうことなく受診した場合は、医療機関で診断治療され、入院期間も約3日間ぐらいです。ここで、医療機関の受診をためらうと、この後に急性心筋梗塞となります。最低でも1/3の心筋ダメージを受けることになります。その後の仕事やご趣味に制限がかかることにもなりかねません。胸部症状の受診はお早目にというメッセージは、特に命を取り留める、現状復帰するために大事な態度といえます。とは言え、本当は予防が大事です。生活習慣病のコントロール、改善こそ胸部疾患の発症予防になることも申し添えておきます。