保健の窓

五十肩

鳥取県立中央病院 整形外科医長 村岡智也

いろいろな「五十肩」

 「五十肩」は、「50歳前後に起こる肩の痛み」を指す呼称として広く使われています。その歴史は古く、1797年前後の江戸時代に発行された俗語辞典「俚言集覧」に、「凡、人五十歳ばかりのとき、手腕、骨節痛むことあり、程すぐれば薬せずして癒ゆるものなり、俗にこれを五十腕とも五十肩ともいふ。」と記載されています。 そして今も多くの方が、「五十肩は、40から50歳頃に肩が痛くなり、動きも悪くなり、でも半年から1年くらいで自然に治る」と思われているかもしれません。それは正しくもあり、違ってもいます。 「五十肩」には、「狭義」と「広義」があります。 「狭義の五十肩」とは、他に痛みの原因となる疾患を除外したものを言い、整形外科における「五十肩」は通常これを指します。確かに多くは自然治癒します。一方、「広義の五十肩」とは、腱板損傷や石灰沈着性腱板炎などといった、原因が明らかであるものを指します。「広義」は症状が「狭義」に似ていますが、その年齢や症状、予後など「狭義」と異なるため、診察の際にはこれらの鑑別が必要です。歴史が長く、広く知られている言葉だけに、混乱を招くのかもしれません。

 

 

 

 

「五十肩」は「氷」

 「五十肩」は正式な病名ではありません。 国際的に使用されている疾病分類では「肩関節周囲炎」、「癒着性関節包炎」が該当し、学会や論文では「凍結肩(=frozen shoulder)も用いられています。 狭義の「五十肩」には病期があります。一般的に、①痛みが強く、動作時痛や安静時痛、夜間痛が主体の「炎症期」、②痛みが軽減する一方で、関節可動域が制限される「拘縮期」、③関節可動域制限が徐々に改善していく「回復期」の3つに分類されています。英語では、①をfreezing phase、②をfrozen phase、③をthawing phaseと言います。①は「凍る」、②は「凍った」、③は「溶ける」という意味で、病名や病期を「氷」で例えているのは何とも興味深いものです。多くは自然に「溶ける」のですが、実は半数は数年後でもなんらかの症状が残っていた、という論文報告もあります。病期によって日常生活指導、薬物治療、リハビリといった保存的治療がなされますが、抵抗して症状が改善せず、「溶けない」場合は手術を考える事もあります。