Joy!しろうさぎ通信『女性活躍社会』

米子市 米子西クリニック  松 澤 充 子

8月に原稿の依頼を受けて、何を書いたらよいかなと迷っていた時、某医大が男性に加点して女性の合格人数を抑えていたというニュースが流れました。身近な問題ということもあり、たくさんの医師がこれについてコメントを出していました。

共働きが浸透してきていて、女の子であっても教育に力を入れて手に職をつけさせようと親の意識も変わる中、医学の道を目指す女性の割合も増えているのだろうなと思います。

安定した戦力の確保が重要な、大学側の苦しい胸の内はよく理解できます。女性医師の30代での就業率は70~75%レベルに落ち込むそうです。女性医師の3人に1人が未婚とも言われており、そうなると既婚者の大半が一時的に仕事を諦めているということになるのでしょうか。社会に出て伸び盛りの30代です。妊娠出産子育てという時期に入っていく可能性のある女性よりも、戦力として安定感のある男性が増えてくれた方が良い。それって至極当然な考えだと思ったりもします。

急に女性活躍社会をと政府の音頭で盛り上がってみても、現在の医療界は他業種以上に、専業主婦が非常に多かった時代から変わりないシステムを持つ男性社会です。そこに突然家庭持ちの女性が入って「同じ量の勤務=時間の拘束」をこなせるとは到底思えません。

通常業務の話とは違いますが、この度、医師会の仕事に入らせていただき、個々の会議が19時30分~21時前という子供の食事~入浴~睡眠のキーにあたる時間に設定されていることを初めて知りました。核家族の母親にはムリだなと高い壁を目の当たりにした次第です。子供を抱えても、様々な仕事を制限することなくフルで働き続ける方法を考えてみたのですが、「時間に余裕のある男性と結婚する」、「ある程度の育児放棄をする」、「医者とは結婚しない」といった具合でして、これといった方法を思いつきませんでした。

女性医師が男性医師と比べて、戦力にならないとして敬遠されないためには何が必要なのでしょう。そういう社会が実現されるために必要な、根本的な改革ってどういうものなのでしょう。

世間には少し頑張った考えが出ていました。看護師と同じようにチーム医療の三交代制にしてしまう提案。これについては、なるほどと思う部分もありつつ、責任を誰がとるのかと思ってしまいました。責任問題が解決したとしても、待機も含めて24時間ある拘束時間を割り振って、一人8.5時間相当にしてしまうには医者の数が2~3倍は必要かなと。医者の数を増やすにあたり、拘束時間が減るのだからと報酬を落として対応したいところですが。そもそも時間外手当はゼロ、サービス残業でやってきているから、純粋に人件費が2~3倍になるだけですね。なかなか難しいようです。

個人的には、男性の育児休暇義務化というのが一般企業で出てきており、これに興味があります。男性医師への育児休暇の徹底。かなりのインパクトです。

育児を経験することで、仕事を一時期諦めて立ち止まることへの気持ちが理解できるようになると思います。同じ経験をすることで、仕事と子育ての間で生じてくる様々な思いを強く共有できそうです。何より、働き盛りの世代が男女問わず育児休暇に入るとなると、医療業界側も停滞しないために真剣に考えざるを得ません。どうしたら乗り切れるか。体質を変えるしかない。どこから改革していこうかと大慌てで重い腰をあげることになるでしょう。

医師の男女比がほぼ等しいスウェーデンも、育児休暇のシステムが鍵になっているようです。育児休暇480日が父と母に240日ずつ与えられ、そのうち90日は相手に譲ることができないとなっています。父親の育児期間を長くすることで母親への負担が減るように配慮されていて、国がそう定めているとなると、社会全体には当然「育児は夫婦で行うもの」という認識が浸透するでしょうから。日本の場合、まず企業側の猛反対は必至につき、すぐの実現は難しいでしょうが、粘り強く声をあげていくポイントかとも思います。

さて、働く母親への職場理解という点で、過去の自分を恥ずかしく思うことがあります。そもそもですが、子育てを始める前の私は、働く母親の気持ちを理解できていませんでした。

一例として、子供の病気で欠勤する職員を見て、なぜ病児保育を利用しないのかと思っていました。そういう思いは言葉に出さなくても態度で伝わっていたことでしょう。病気の時の子供は通常以上に両親を求めます。高熱で泣く子を、日頃全く接したことの無い病児保育の環境に行かせることには勇気が必要です。自分がいざ、保育園から熱で呼び出しを受ける身になってみて、どれくらい情けなく申し訳ない気持ちで、彼女らが早退を申し出ていたかが分かりました。そして早退を申し出た時の相手の表情や態度には非常に敏感になるということも。

経験を少しずつ積んだ結果、遅ればせながら私も働く女性に寄り添う考えが出来るようになりました。もともとの個々人の性格も大きいでしょうが、経験をするということは考え方がガラリと変わるきっかけになるのだなと強く感じました。

女性活躍社会を本気で願うのであれば、男性の育児休暇義務化実現に向けて国が動く価値はあるように思います。女性が社会の中で実力以下に査定されることが減る一歩になるかもしれません。