Joy!しろうさぎ通信『ビビビ婚と地域医療』

国民健康保険智頭病院  尾 坂 妙 子

私は米子市の出身で、幼少期は父の転勤で松江市、雲南市に住んでいた時期がありますが、小学校からは高校まではずっと米子で育ちました。父は麻酔科の勤務医、母は専業主婦という家庭に生まれ、いつも学校が終わり家に帰れば母がいてくれるという環境にとても幸せを感じていました。そのためか将来なりたい職業はお花屋さん、ピアノの先生、習字の先生と、今思えば外でバリバリ働くキャリアウーマンというより、家でマイペースにできる仕事を選んでたのかなぁと思うこともあります(今時の子ならユーチューバー?)。普段父の仕事ぶりを見る機会はなかなかありませんでしたが、自分や家族の体調が悪いときに父が与えてくれる安心感はとても大きく、また大好きな地元で人の役に立つ仕事がしたいと思い高校生になってからは医師を目指すようになりました。高校1年生の最初の物理の授業で、先生にそれぞれ希望進路を聞かれた際、トップバッターだった私は緊張して馬鹿正直に『鳥大の医学部です!』と宣言したものの、その後はみんな言葉を濁しており、自分一人があとに引けないような状況になってしまったと思いました(その挙げ句に、現役時代は鳥大は推薦・前期・後期と全滅でした)。

そんな高校・大学浪人時代、同じ吹奏楽部だった現在鳥大地域医療学講座でご活躍中の紙本先生との出会いから自治医大を目指し、1年の浪人生活の後無事合格したものの、留年や国試浪人等、紆余曲折を経て、現役生から遅れること3年で医師になりました。現在医師8年目で、これまで鳥取県立中央病院での初期研修を2年、日南病院に2年、智頭病院に1年の勤務後、1年間の産休・育休を経て鳥取市立病院総合診療科で1年の後期研修後、今回2回目の智頭病院勤務中です。

夫との出会いは初期研修中、智頭病院に地域医療研修に行っていた時でした。当時智頭病院のMSWだった夫にビビビときてしまい、猛アタックの末晴れてお付き合いすることになりました。最近でも智頭病院に研修に来てくれる初期研修医の先生達が『何がどうなってこの2週間で結婚相手が見つかるんですか!』といい反応を見せてくれるので私の鉄板となっています。この人とならどんな困難も乗り越えられると根拠のない自信を持って、初期研修後西部と東部で2年間の遠距離生活が始まり、めでたく結婚しました。夫は結婚に対して割と冷静で、これまで智頭病院のMSWとして自治医大卒業生を見てきて、私達の勤務に対する理解がもともと深く、それはそれは様々な困難を想定してそれでも頑張ろうと決意して結婚してくれたそうですが、一方頭の中がお花畑だった私は次々といろんな問題に直面し、その度に皆さんに助けてもらいながらなんとか今日までやってこられました。

結婚してから嫁ぎ先の若桜町の住民の皆さんのリアルな生活を知ることになりますが、特に医療的な面で言えば若桜町には診療所はありますが病院がありません。また子育て世代としては近くに小児科がないことも米子との違いとして気になる点でしたし、鳥取市立病院での勤務中、若桜町の住民は鳥取市の病後児保育が使えないという点で大変困りました。そもそも若桜町に病児・病後児保育がないですし、郡部から市内へ仕事に行く親にとっては切実な問題だと思います。同じ八頭郡でも智頭町には病院も小児科もあり、病児・病後児保育があります。しかし医師不足・保育士不足の現状を考えるとそれも当たり前のことではなく、維持していくためには先生方個人の努力に甘えることなく、住民としても声を上げ、今後も安定したシステムとして機能していくよう、働きかけが必要なのではないかと思います。

私自身はというと、市長や町長に病児・病後児の対策についてお願いしたことはありますが、まだ医師としても母としても半人前で日々をこなすのに精一杯で、実際は何にもできていません。家に帰ったら家族と目一杯濃い時間を過ごしたいので医療系のドラマもほとんど見ませんが、コードブルー(と、ドクターX)だけは好きで先日映画を観に行きました。

医師になって初めて入った学会は、現在所属しているプライマリケア学会でも内科学会でもリハ学会でもなく、航空医療学会でした。実際郡部での勤務でドクヘリにお世話になったこともありますし、重症患者の命を救うスーパードクターはかっこよくて憧れますし、せめて髪型だけでも新垣結衣に似せたいと思い縮毛矯正をかけたところ、なんと先日病棟の看護師のかたにそれっぽいですね(!)と言われ、その日は記念すべきアラフォーになった誕生日で、ありがたくプレゼントとしてその言葉を受け取りました(そろそろ前髪を切らないといけません)。

しかし私は自分の人生を考えたときに、命の最前線で闘う医師というより、暮らしの中でいかに地域住民がその人らしく生きるかという点で医師がどのように関われるか、そこに自分のすべきことがあるような気がして、現在総合診療科の専門研修を受けています。特に自治医大卒業生に関しては、あえて専門研修を受けなくてもマインドとして身につくものだろうと思っていましたが、実際言語化・体系化されたものを学んでみると、今の地域での勤務がより充実したものになっていると実感します。

地域医療とは何か、きっと夫と結婚して郡部での暮らしを自分の生活の場として本気で考える機会がなければ気付けなかった感覚があったんだろうなと思います。もちろん大変なことはありますが、いろんな意味で私の人生が豊かになったと思います。私がどんなに遅い時間に酔いつぶれて帰っても『人間らしくていいじゃないか』と嫌な顔一つせず笑って迎えてくれる夫は時に神様のように見えます。

現在第2子を妊娠中で、智頭病院では宿直を免除していただき、土日の日直のみというありがたい環境で勤務させていただいております。仲間には迷惑をかけていますが、このご恩はいつか後輩にお返ししようと決め甘えさせていただいています。まずは私自身が元気で笑顔でいれることが一番と言って応援してくれる夫や家族に感謝しながら、医師としても歩みを止めることなく少しずつでも前に進んでいけるよう頑張りたいと思います。