Joy!しろうさぎ通信『スイッチ』

鳥取県立総合療育センター 小児科  細 田 千 佳

皆さん、こんにちは。皆生の総合療育センターに勤務しております、細田と申します。

大学卒業と同時に、生まれ育った山陰に戻り、気づけば12年になりました。鳥取大学脳神経小児科に入局して10年、山陰で生まれ育っていても経験することがなかったことに、仕事でも、仕事以外でも(傘を持って踊ったり、わらじを履いて登る山に登ったり、トライアスロンの支援をしたりなどなど…)いろいろな経験をさせていただきました。やや(?)ADHD特性強めの私としては、様々な楽しそうなことに声をかけてくださったり、付き合ってくれる方々には大変感謝しております。

こうして独身生活を謳歌している私にとって、「ワーク・ライフ・バランス」というものは、自分以外の人間に関する家事を持っている先生方に比べて、気楽なところはあるだろうな、と思います。いっぽうで、独居だと帰宅しても職業人ではない自分として他者に接することが少ないことで、on-offスイッチの切り替えが難しいのかなとも思います。私の周りの「妻スイッチ」、「母スイッチ」などをお持ちの先生方は、皆さんそれらの切り替えがとても上手に見えます(きっと見えないところでご苦労もあるのでしょうが)。

では、自分のなかでスイッチの切り替えってどこなのかな、と考えてみましょう。

広島にいた大学時代、地元出身の同級生の影響と、カープ中心のローカルテレビ編成によって完全に洗脳され完成した「カープ女子スイッチ」はその最たるものかと思います。本拠地マツダスタジアムのチケットは、ここ数年のチームの戦力・人気の上昇によりすっかりプラチナチケット化してしまい、以前のように思い付きで観戦にいくことが難しくなってしまいました。それでも年に何度かは球場に行って、ユニフォームを着て、カンフーバットを打ち鳴らして試合観戦をしています。仕事が忙しくても、テレビ中継が始まるまでにはどうにか帰ろうと努力するので、残業減にも貢献していると思います。

あれは2016年のことです。その2年前に脳梗塞を発症したものの、リハビリの成果があり歩行が安定した父。そんな父に旅行をプレゼントしようということになり、生粋の巨人ファンの両親を招待すべく、東京ドームでの巨人×広島戦のチケットを入手しました。夏休みの関係もあるから9月に行こうと春から相談して楽しみにしていました。

するとカープはシーズン序盤から快進撃を繰り広げ、鬼門と言われる「こいのぼりの季節」を超えても上位を独走しました。旅行が近づくごとに「もしかして胴上げに立ち会えるかも…」とテンションが上がる私。巨人ファンのはずなのに「たとえカープでも、優勝が決まる瞬間とかなかなか見れるもんじゃないしせっかく行くなら見たい」という巨人ファンらしからぬLINEを送ってくる母。特にコメントのない父。

そして観戦当日、9月10日。カープは巨人戦を制し、1991年以来のセ・リーグ制覇を果たしました。胴上げされる緒方監督、そして広島に帰ってきた新井選手、黒田投手を見て、号泣する私。その横で、試合に負けた上に優勝まで決められてしまった父は、最近じゃなかなか見ないような機嫌の悪い顔をしてビールを飲んでいました。

私が小学生のころ、プロ野球中継が9時を回っても終わらないときはよく放送時間延長になっていました。巨人の試合経過に一喜一憂し、勝てないと悪態をつく父、そして試合はどうでもよくて試合後の番組が繰り下がりになることに機嫌を損ねていた私。それが30年の時を超えて、ともに(?)野球観戦を楽しむこのような姿になるとは誰が予想したでしょうか。私もわかりません。ちなみに翌年も観戦旅行が実現しましたが、この時は巨人が勝利し、父は機嫌よく帰ることができました。ここまで書いて気づきましたが、「娘スイッチ」があったのを忘れていました。

最近は野球好きが高じて、職場でも野球の話(高校野球、プロ野球いずれも)を振られたり、野球をやっている外来の子どもたちと話に花が咲いたりして、仕事にも入り込んできているように思います。学校や家庭が居づらくなって外来に来ている子どもたちにとって、身近にいる話しやすい大人の1人になっていればいいなと思います。もしかしたらこのおかげで小中学生男子が嫌がらずに外来に来てくれているとしたら、カープ女子、野球女子冥利に尽きます。

今後もし他にスイッチが増えたとしても、おそらく「カープ女子スイッチ」は稼働しつづけると思います。「自分も赤ヘルスイッチ持ってるよ」という先生は、そっとお声かけいただけると、ポチっと入るかもしれません。

最後に。ここまで書いておいて何ですが、私は生まれて一度も逆上がりができたことがないほどの運動音痴です。ですので「プレイヤー」というスイッチは持ち合わせていませんので、そこはご注意ください。