Joy!しろうさぎ通信『「女性医師」という職業』

鳥取大学医学部 放射線治療科
鳥取大学医学部附属病院 ワークライフバランス支援センター長  内 田 伸 恵

皆様、こんにちは。私は島根医科大学(現・島根大学医学部)卒業後、主に母校で放射線治療に従事しました。その後2012年4月から鳥取県立中央病院放射線治療室、2015年3月から現在の鳥取大学で勤務しています。

2018年春の医師国家試験合格者中の女性割合は33%ですが、私の時は約10%でした。医師として働き始めてからも女性医師の存在が殆ど認知されておらず、患者さんから看護婦(当時は女性の職場!)と間違えられ、外来で「お姉ちゃん」と呼ばれたことも懐かしく思い出されます。数少ない女性の先輩からは、「男性の3倍働かなければ認められない」、「国の補助を受けて教育を受けたのだから社会に貢献し続けるべき」と言われました。元同級生と結婚し、2児を出産しました。舅姑・両親は東京と岡山在住で、子どもたちは保育所やベビーシッター、子供の友達のお母さんなどいろいろな人の手を借りました。診療と大学院生生活と保育園の送迎、夫の長期単身赴任…思い返すと常に走っていた気がします。いつの間にか大きくなったというのが実感ですが、子どもたちが生来健康であったことが大きな幸いでした。

次女が中学校に入学して育児が一段落した頃、後輩から仕事と育児の両立について相談を受けることが多くなりました。両立体制の不備は、自分のときと変わっていないと感じました。島根大学医学部全職員対象に院内保育施設の希望調査を実施し、保育所設立を陳情しました。これをきっかけに学内で女性医療スタッフ支援について用命をうけることが増えました。文部科学省の大学改革推進等補助金・新しい女性キャリア継続モデル事業 (2007-2009年度)の申請者・事業推進責任者となり、女性スタッフ支援室長を拝命しました。病児保育室の開設と運用、学童保育がない時間帯のシッター制度、相談窓口とメンター制度、育休中女性医師の復帰支援教育としての遠隔画像診断システムの構築、マタニティ用白衣の開発(特許取得)などなど1)。「自分のときにあれば良かった」と思う事柄をモデル事業として形にしていくのは、やりがいがありました。あれから10年、当時試行錯誤したものが、各地の病院で根付きつつあるのを見るのは感慨深いものです。マタニティ用白衣は鳥取大学病院でも採用いただいており、赴任後、女性医師が着用しているのをみかけて嬉しくなりました。

今は日本放射線腫瘍学会理事、日本医学放射線学会ダイバーシティ推進委員会委員などを拝命し、学会で女性医師の活躍を推進する立場にあります。内閣府が「2020年までに各分野で指導的地位の女性割合を30%に」という目標を掲げていますが、目標に程遠い実態であることは昨今の報道をみても明らかです。女性医師についても、少なからぬ医学部で女子受験生の合格基準をこっそり厳しくしていたというショッキングなニュースに、改めて問題の根深さを感じました。医学部当局や医療現場の女性医師に対する視線には、依然として厳しいものもあるということでしょう。「けしからん」というのは簡単ですし、もちろん入学試験・採用試験は公平公正であるべきですが、女子受験生の先輩である我々は、この背景を真摯に考える必要があると思います。いわゆるマミートラックに安住するのではなく、現在の自分の立場でできることを精一杯やっていきたいものです。

思い返せば「学内初の女性○○、学会の女性○○」などと言われてきました。その度に「女性医師」という職業があるのかどうか、疑問に思ったものです。女性医師が過半数を超える国もあるではないか。単に「医師あるいは個としての私(その属性は女性)」では駄目なのか…そう思っていたところ、2016年JAMA internal medicineに掲載された論文2)(Tsugawa Y., et.al.)で、女性の医師が主治医の場合は、男性の場合に比べて、患者の再入院率、病院死亡率が有意に低いという大規模調査の結果が報告されていました。その理由として、女性医師は男性に比べ、診療ガイドラインなどルールの遵守率が高く、科学的根拠に沿った診療を行う、患者とより良いコミュニケーションを取る、専門外のことを他の専門医によく相談する、などリスクを避ける傾向があり、これが影響しているのではないか、と考察されています。なるほど。女性に多くみられる特性が、医師としての資質にもプラスに働くということか。そうであれば「女性医師」であることを楽しみ、その特性を発揮していきたい、実績と人物で評価される医師を目指したい、と思います。私自身も老親の介護問題に直面しており、改めて「社会に貢献し続けるべき」という言葉を思い返しているこの頃です。

1)地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム「新しいキャリア継続モデル事業、しなやかな女性医療職をめざして」最終報告書(2007~2009)

2)JAMA Intern Med. 2017 Feb 1 ; 177(2) :206−213.