Joy!しろうさぎ通信『女性医師のライフコースについて〜働き方改革と産業医の視点も含め〜』

倉吉市 福嶋整形外科医院  福嶋 寛子

 この度「Joy! しろうさぎ通信」に産業医の視点から女性医師についてのテーマはどうかとの
御提案を頂きました。
 近年、女性医師割合は上昇傾向にあり、2020年厚生労働省による第114回医師国家試験合格者の
報告では総数9,341人、うち女性は3,135人の33.6%を締めています。他方では2017年から厚生労
働省により、医師の働き方改革に関する検討会が重ねられ、2024年4月以降には医師の時間外労働
規制が適応され、地域医療提供体制の確保による医師偏在解消目標は2036年とされています。医師
の労働時間短縮にむけた緊急な取組としては、骨子の一つに女性医師等に対する支援があげられて
いるそうです。これらは基本的には勤務医を念頭に置いたものですが、医師の診療業務の特殊性に
おいては勤務医に限らず医師全般に共通することでもあります。働き方改革は男女ともに見直しが
図られていますが、仕事と生活の調和というワークライフバランスは女性医師の仕事と育児の両立
の面では未だ支援体制が必要であり、充実しているとは言いがたい現況です。一般職種であっても
日本の女性の年齢階級別労働力率の推移はM字カーブを描き、とりわけ専門性を要する医師として
従事する女性医師は、これまで男性医師と同様にこなしてきた自己犠牲的な長時間労働とキャリア
を、育児や介護などのライフイベントを迎えながら継続できるのかが問題になります。仕事におい
て形成の維持も自身のキャリアについても研鑽してきた女性医師が、家庭や育児においても納得の
できるライフコースを歩むことは簡単ではなく、見合った支援体制が整って初めてワークライフバ
ランスが保たれると言えます。
 産業医は事業者と労働者の健康面からの架け橋を担いますが、企業で言うと病院は一事業場であ
り、勤務する医師は一労働者です。一労働者である医師の長時間労働は上記の如く喫緊の課題です
が、抜きん出た長時間労働は20代、30代の若い医師に顕著に見られます。一般企業では長時間労働
の対策として、休憩時間や休日や代休の確保、ワークシェアリングや雇用増員などを提案しますが、
医師においては現状では難しいように思います。日々の多忙のなかで自身の職場環境管理の状態な
ど捉えることもままならない20代、30代のこの時期に、女性医師はまさに出産と育児のライフイベ
ントが重なります。女性医師に限らずですが、勤務に身を投じてからでは将来のビジョンを思い描
く余裕もないため、自身のライフコースについて学生や就労早期から考えることが必要に思います。
育児の主な担い手は母親であることに変わりはなく、介護でも大多数では女性が行います。ライフ
イベントに差し掛かった際には仕事と家庭による過重労働でパンクしないように、短時間勤務や宿
日直の免除など、多様な働き方が可能となる支援が必要になります。
 一方、一事業場である病院では、科単位で外来、病棟、手術等の分担と協同作業で医療が行われ
ていることが多く、女性医師のライフイベントによる短期休業により、先ず同僚がその分の業務を
担うことになります。大企業のような大学病院であれば少なからず一人分の業務を何人かで補うこ
とは可能であるかもしれませんが、中小企業のような基幹病院や個人病院では数人で1人分の業務
を代行するため、従来の1倍以上または2倍もの業務を行うことになります。長期休業となった場
合、一般企業では新たな正規労働者の確保をしますが、専門職である医師の場合は人員の補充が容
易でないのが通例です。正規労働者の確保が難しい場合、非正規労働者や派遣社員を雇用しますが、
病院としても短時間正規雇用やパート等の雇用することで代行業務を行う医員の負担軽減になりま
す。女性医師の復職が得られた後にも、常勤で子どもがある女性医師はそうでない医師と比較する
と週あたりの勤務時間が短く、50代で他の医師と同程度の勤務に戻るとあります。このことより、
短時間正規雇用やパート等の雇用による増員があれば、復職した女性医師の仕事と育児の両立によ
る負担軽減にも繋がるのではと思われます。この柔軟な雇用の斡旋には大学病院に加え医師会も何
らかのアクションがならないのかと思われました。
 産業医は健康管理と作業管理と作業環境管理が任されており、家庭分業についてまで関わること
はあまりありません。共働き家庭では育児など家庭の分業に対して父親の参加や協力が望まれます
が、平成29年に鳥取県医師会が行われたアンケート調査の「女性医師の勤務環境に関する現況調査
結果報告」によると、女性医師の「配偶者の職業」で「医師」が65%、「医療従事者」が9%と、
父親が育児休業を行った場合、医療現場へのマイナスは否めないことが分かります。家庭分業が困
難な場合、3世代同居あるいは3世代近居も有効といわれます。育児やしつけには祖母のサポート
力が大きいのは既知のことですが、保育所や学童保育だけでは補えない送迎、通院、学校行事、地
域の連携、不測の事態など、母親の替わりとなる細やかな対応にはその存在は大きいものです。先
述のアンケート調査でも、「子どもの病気や緊急な呼び出しなど予定外の保育が必要なとき」には
「預ける」が72%、「預け先」として「病児保育」の26%を超えて「親族」50%がその表れと思わ
れます。育児だけではなく介護についても「介護にあたっているのは」女性医師である「主に自分」
が35%、「自分以外の身内」が30%と家族・親族単位のサポートが65%であり親世代の協力が大き
いことが分かります。とはいえ、県外出身の先生も多く、病院間の転勤などを考えると核家族に対
応できる家事支援などの情報の拡充も望まれます。
 このように女性医師の働き方には、医師の働き方改革による画一的な長時間労働の規制だけでな
く、家庭での仕事量も加味し勤務形態の配慮をすべきかと思われました。そのためには現場の1人
あたりの労働負担が増加しないよう、正規雇用に限らず短時間正規雇用やパート雇用などで増員で
きるような選択肢もあるかと思います。女性医師自身も医師としてのライフコースを意識し、ライ
フイベントに伴う離職からの復職時には不安や滞りがないよう、知識と技術が落ちずに情報に遅れ
ない比較的早期の復職が肝要と思われました。女性医師の増加により働き方の柔軟性が増すことは、
男性医師にとっても働き方の見直しによる改善の可能性を示しています。「医者の不養生」となら
ないよう自身の健康と環境を管理し、一労働者と一事業場として健全な職場を構築できれば、より
良い医療の提供にも繋がるものと思われます。
 今回のテーマを頂くことにあたって自分自身を振り返り、如何に周囲の先生方の時間と作業負担
を頂いていたのかを改めて認識し、深い反省とともに書かせて頂きました。医局や勤務病院の先生
方には多くの支援を頂きましたこと、心より感謝申し上げます。平成一桁代の学生時にライフコー
スを描くこともなく、ライフイベントが重なった事由により復職に時間がかかり、大きな不安とと
もにパート勤務より戻らせて頂きました。御陰を頂き、現在は地域病院のパート勤務と自診療所で
短時間勤務、また産業医も少し任せて頂き多様な働き方の一例とならせて頂いています。M字カー
ブを乗り越えつつ今があり、御恩返しのためにも息長く務めて参りたいと思っております。

参考資料
・厚生労働省:医師の働き方改革に関する検討会報告書.https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04273.html
・フランスに学ぶ男女共同の子育てと少子化抑止政策.株式会社明石書店.2014
・片岡仁美:男女共同参画の視点からみた働き方改革.整・災外 63:907−917,2020
・女性医師の勤務環境に関する現況調査結果報告.鳥取県医師会報 753:25−35,2018