健康ア・ラ・カルト

【Ⅰ.健康セミナー】  6.脳の画像診断と脳卒中

デジタルなので、確実に画像を保管情報伝達も容易に

脳の画像診断というタイトルを書きましたけれども、画像診断というのは、まさしく読んで字のごとく、画像を見て、絵を見て診断する学問の領域です。この画像診断は、今の医療の中で重要な役割を果たしています。

しかしながら、決して特殊な仕事ではありません。つまり1例ですけれども、画像診断、例えばテレビを見てて、あの歌手はきれいだとか、あの男性歌手は格好がいいとかというのは、その姿、形を見て診断をしているわけです。だから、決して特殊なことをやってるわけではありません。

さまざまな診断法

さて、この画像診断法にはさまざまなものがあります。一つがエックス線単純撮影。これは内科の先生が診察をされて、写真を撮りましょうというと、胸の写真を撮るわけですが、それは単純撮影なわけです。

次が血管撮影です。これは血管の写真を撮る方法です。それからコンピューター断層撮影、これはもう皆さんもよくご存じだと思いますけれども、 CTと略されます。 それから超音波断層撮影、これは一般にエコーと言われます。これも非常に簡便でいい検査法です。それから最近、脳ドックなどで特にその診断的重要性が増してる画像診断法が磁気共鳴画像、MRIと略されます。 ここまでが主に脳の場合、脳の形を見る診断法です。

残った三つ、シングルフォトンエミッションCT。 多くはSPECTと略されます。それからポジトロンCT、これはPETというふうな略され方をします。それからこれはまだ臨床には用いられていませんけれども、近赤外線を用いたCTで光CTというものが研究段階であります。この三つは、形を見る診断法に対して脳の働きを見る診断法です。特に脳の場合には、形を見る診断法と働きを見る診断法と、この両方からのアプローチが重要になります。

すぐ病院に運ぶ

次に、脳卒中にどのように画像を応用しようかといったことを簡単にお話ししたいと思います。脳卒中というのは、何かに当たったように突然に倒れる病気ということで、一般的には脳の出血、くも膜下出血、脳梗塞(こうそく)の三つに分類されます。

脳卒中というと、昔は倒れたらそのままじっとして寝かせておかなきゃいけないということが言われたわけですが、私が以前いました秋田県は、脳卒中の多発県ですが、 1968年 に 秋田脳研という脳卒中の専門センター病院ができて、脳卒中が起きたらすぐ病院に運べということ、病院に運んで治療するんだと、秋田脳研方式というわけですけども、それが発足当時から行われてたわけです。

大都会の東京でそういった治療が行われなかったのに、県120万、秋田市30万という人口のところで、そういった治療が行われてたわけです。今では脳卒中が起きたら、だれもそこに寝かせとけとは言わない、すぐ病院に運ぶということが定着しているわけです。そのように、脳卒中というのは一刻を争う病気であるわけです。

死亡率を見てみますと、脳卒中は人口10万人当たり、1970年代は170人ぐらいでピークを迎えたわけですが、その後、徐々に減少して、現在では、悪性新生物、がんが1番で、2番が心疾患だったと思います。3番が脳卒中になって、確かに少なくはなってきてるわけです。

最も多い脳梗塞

脳卒中の中身を見てみますと、その中で、最も多いのが脳梗塞です。脳出血というのは、どんどん少なくなってきてます。人口10万人当たり70人ぐらい亡くなってるのが脳梗塞です。このように、死亡順位でいえば3番目かもわかりません。しかし、こういう言い方はよくないのかもわかりませんけども、がんの場合には治る人、治らない人、治らないで亡くなってしまう人がかなりはっきりしてるわけです。しかし、脳卒中の場合には、いったんかかってしまうと、その後、後遺症を残したり、あるいは寝たきりになったり、あるいはぼけになったりということで、医療経済学的にはものすごく重要な疾患です。

これはもちろんご本人が最も大変なわけですけれども、ご家族もその介護のためにものすごく大変な病気なわけです。そういう意味から言いますと、がんよりも最も大変な疾患であるということになります。これに対する治療策は、最も重要なのは予防なわけですけれども、なってしまったときには即座に病院に運んで治療するということが必要になります。

こういった脳卒中の患者さんに対して、放射線のテクニックを使って治療をしているという現状をご紹介したいと思います。一つは、血管を拡張させる方法、血管を詰める方法、血栓を溶かす方法、こういったものがあるということです。

より苦痛ない検査

最後に、画像診断の本当に近い未来についてお話ししますと、今まで血管撮影のようなより侵襲的な患者さんに苦痛を与える検査から、より低侵襲で、より短い時間で、かつより美しい画像を撮る検査法がどんどん出てきてるということが一つ。

もう一つは、 今撮られてるCTにしろM RIにしろ、すべてこれはデジタル画像です。最近では、デジタルカメラというのがもてはやされていますが、アナログの通常のカメラと違うところは、デジタルカメラというのは、容易にコンピューターに取り込んでいろんな処理をすることができるわけです。医療画像、CT、MRIについてはデジタル画像ですから、コンピューターで確実に画像の保管をすることができます。しかも、容易にこの画像情報を伝達することも可能になっています。

恐らく、将来的には、患者さん、生まれてから死ぬまでといいますか、すべての画像情報が1枚のディスクか何かに入れられて、どこの病院にかかっても、自分が生まれてから死ぬまでの画像を即座に見ることができる。同じ検査を別な病院に行ってされるということはなくなる方向に行くと思います。

画像診断というのは決して特殊なものではなく、より侵襲的なものから、より患者さんにとって苦痛のない検査法で脳の細かな情報が得られるようになったということをお話ししました。

(鳥取大学医学部放射線医学教授・小川敏英)