健康ア・ラ・カルト

【8)内分泌疾患】  6)身体が熱くなり汗が出る

質問

今では還暦を過ぎましたが、40代のころ。甲状腺(せん)疾患にかかり、橋本病の診断で通院治療を受けました。それ以後発汗に悩まされ、一年中ハンカチを手放すことができません。血圧も高く、再度病院にいきましたが、病気は全快しているとのことです。甲状腺の後遺症でこんなに汗が流れるのでしょうか。

更年期障害ではと思った時期もありましたが、その後一向に変わらず、身体がカァーと熱くなると汗が出ます。こんな状態が1日何回となく起きるのです。何か良い治療法がないものでしょうか。

回答

◎自律神経失調症

ご質問の中で、汗が多く出るのは甲状腺に原因があるのではないかと疑っておられますので、最初に甲状腺疾患と発汗の関係について説明いたします。

確かに甲状腺の病気の中には汗を出すものがあります。ただし、この場合には血中の甲状腺ホルモンが一般に増加しているのです。

血中甲状腺ホルモンが増える病気として、広く知られているものに、バセドウ病があります。この病気は、甲状腺の働きが高まって、たくさんのホルモンを血中に分泌するので甲状腺機能亢(こう)進症ともいわれ、甲状腺ホルモンが増加したために生じる症状を甲状腺中毒症状と言います。発汗も、この中毒症状の一つなのです。

そこで、ご質問の発汗が甲状腺に関連したものかどうか考えてみます。もし甲状腺機能亢進症であれば、発汗以外の甲状腺中毒症状、たとえば脈拍の数が増え、少し動いても動悸(き)がする。体温が上昇し、微熱が続く。手がふるえる。精神面でも不安定になり、いらいらして落ち着きがなくなる。また食べる量は十分であっても、やせてくるなどの症状がみられるものですが、ご質問の中には、これらの症状がはっきりとは述べられていません。

さらに、肝腎なことは、甲状腺ホルモンが増加しているかどうかということですが、今、通院中の病院で病気は全快しているといわれていますので、血中甲状腺ホルモンは正常と思われます。これらのことから現在の状態が甲状腺機能亢進症とは考えにくいと思います。

また、過去に診断された橋本病は、急性増悪で一時的に甲状腺ホルモンが上昇することはあっても、ご質問のように長期間甲状腺中毒症が続くことはまずありません。むしろ橋本病は経過とともに甲状腺ホルモンが減少し、甲状腺機能低下症に移行する傾向が強いのです。

この甲状腺機能低下症に過剰の甲状腺ホルモンを投与した場合にも、甲状腺中毒症をきたし、発汗も起こりますが、この治療を受けておられる事実がなければ、今の発汗が甲状腺に関連したものであるとはいえません。

汗を分泌する神経は交感神経といわれています。甲状腺以外にも汗を出す疾患はありますが、経過からみて、ご質問の発汗は、交感神経の興奮によるもので、一種の自律神経失調症と思われます。このような観点で、今後対処しなければなりませんが、発汗のみ抑制することはなかなか難しいことですので、焦らず経過をみてください。

(西部医師会員・安部喬樹)