健康ア・ラ・カルト

【2)脳と神経】  4)突っ張る痛み、突然体中に

質問

83歳、男性。手の指から足の甲までの体中が、突然、こむら返りのような突っ張る痛みを覚え、それがしょっちゅうおこるので、我慢できず、苦しんでいます。なにが原因か、お尋ねします。

回答

◎こむら返り

お手紙にある「こむら返り」とは、医学的には、筋肉の持続的な収縮・けいれんと考えられます。筋肉のけいれんは、からだを動かす命令を送るところから、実行するまでの神経系路、すなわち大脳皮質から発して、脳幹、脊髄(せきずい)、末梢(しょう)神経、筋肉にいたるまで、どのレベルの障害でも起こります=図=。

したがって、原因となる病気は種々ありますが、運動神経の経路に沿ってご説明いたします。

まず大脳では、てんかんの一種で起こることがあります。質問者の年齢を考えますと、脳卒中の後遺症や脳腫瘍(しゅよう)で、脳組織の損傷した部分から異常な電気放電が生じておこる、症候性のてんかんの可能性が考えられます。ただこの場合、発作中は意識がなくなり、筋肉のけいれんは持続的にぎゅーと突っ張るような収縮ではなく、ガタガタとひきつけるようなけいれん(いわゆる「てんかん発作」)であることが普通ですので、可能性は少ないと思います。

脳幹・脊髄レベルでは、多発性硬化症による「有痛性強直性けいれん」という、こむら返りのような症状がおこることがあります。しかし、高齢者がこの病気になることはまずありませんので、可能性は少ないと思います。

末梢神経レベルでは、テタニーという症候群があります。テタニーとは、血液中のカルシウム濃度が低下して、末梢神経の興奮性が高まり、筋肉の持続的な硬直をきたすものです。この場合、口の周りや手足の先端のしびれ感を伴うことがよくあります。

テタニーをおこす原因疾患にはいろいろあります。まず、体内のカルシウム量を調節するホルモンを分泌する副甲状腺という、甲状腺の裏側に付いている小さな内分泌腺がありますが、そこの機能低下でおこることがあります。

次に、血中のカルシウムを排せつする腎臓の働きが悪くなると、テタニーを起こすことがあります。また、摂取した食物中のカルシウムが消化管の吸収不良で体内に十分に取り込まれず、低カルシウム血症を生じてテタニーをおこす場合もあります。血中のカルシウム濃度は血液のpHによって左右されますが、血液がアルカリ性に傾くと低カルシウム血症となり、テタニーがおこります。

この場合、最も多いのが過呼吸症候群で、過呼吸によって血液のアルカリ性が高まり(アルカローシス)、テタニーが起こります。呼吸が荒く、口や手足がしびれて動けなくなり、見た目には重症感があり、よく救急車で搬入されますが、落ち着いてゆっくり呼吸するようにしたり、ビニール袋を使って、ちょうどシンナー遊びをするように自分のはいた息を吸い込むように指導すると、うそのようにケロッとよくなります。

精神的に不安定な若者がなりやすいのですが、結構年配のかたでもこういう状態に陥ることもあります。筋肉のレベルでおこるこむら返りは「糖原病」などがありますが、まれな疾患なので省略します。

いわゆる「こむら返り」は、健常者でも激しい運動の最中や夜間の睡眠中にみられ、若年者でもよくみられますが、老年者ではもっと多いようです。たとえば、夏場にひなたで長時間激しい労働や運動をして、汗をいっぱいかいた後、こむら返りをおこすことがあるのは、ご経験のかたも多いかと思います。

この発生機序はよく分かっていませんが、末梢神経・筋肉レベルでおこるものと考えられています。この場合、多汗、下痢、嘔(おう)吐、食欲不振、利尿剤の使用などによる脱水や、体内の電解質(ミネラル)の異常があるとおこりやすくなります。

「こむら返り」はその名が示すように、「こむら=ふくらはぎ」のみの、からだの一部分だけに筋肉のけいれんが生じるのが普通であり、ご質問のように、全身に及ぶことはきわめてまれだと思います。

いずれにしても、「こむら返り」をおこす原因となる病気が隠れている可能性がありますので、一度、神経内科のある病院で精密検査を受けられることをお勧めします。

(山陰労災病院神経内科・原田英昭)