健康ア・ラ・カルト

【Ⅰ.健康セミナー】  3.脳とこころ―痴ほうをいかに予防するか―

「こころの豊かさ」という言葉が使われますが、その「こころ」が、脳性マヒなど生来の病気によって発達が障害されることが精神発達遅滞であり、一定水準まで正常に発達した後、何らかの脳の病気で障害されるのが痴ほうです。今日はこの痴ほうについてお話しします。

本日のテーマである痴ほうは、さまざまな脳の病気によって起きてきます。言語機能、記憶力、感情面、計算能力、判断力などに異常が起き、周りの人がおかしいと気付きます。

しかし、痴ほうの原因となる病気は早期に治療することによって進展を防ぐことができる可能性がある、ということが今日の私のテーマです。では、痴ほうの代表例を挙げていきます。

脳梗塞

大脳の白質と呼ばれる部分に比較的軽い多発性の梗塞が起きます。危険因子としては、加齢、高血圧、内頚動脈の比較的軽い動脈硬化が知られています。したがって、このタイプの痴ほうは高血圧と動脈硬化の予防で防ぐことができます。

脳の感染、炎症

結核、梅毒、化膿性細菌、真菌(かび)、ウイルスが原因で脳や髄膜の感染症が起きます。また、膠原病、多発性硬化症、サルコイドーシス、ベーチェット病など、炎症性の疾患も脳に障害を起こし結果として痴ほうを起こします。したがって、神経内科で早く治療することが最善の道となります。

内分泌障害

甲状腺機能低下症、副甲状腺機能異常症、アジソン病、クッシング病、糖尿病(反復性低血糖)など、ホルモンの病気で痴ほうが起きます。内分泌、代謝内科で治療することが大切です。

慢性代謝性障害

肝臓、腎臓の慢性機能不全、ポルフィリン症などが原因で痴ほうが起きます。早めに内科で治療を受けることが大切です。

ビタミン欠乏障害

胃を切除後に起きたりしますが、ビタミンB1、ニコチン酸の欠乏などによりまして痴ほうが起きます。

中毒障害

重金属(鉛、水銀、マンガン、タリウム、ひ素)、有機化合物(シンナー)による慢性中毒障害で痴ほうが起きます。また、ウイルソン病という銅が脳に溜る先天的な病気にはペニシラミンという特効薬があります。

無酸素障害

脳は酸素の欠乏に大変弱いことを知っておく必要があります。心臓停止、不整脈、肺の病気、一酸化炭素中毒、青酸塩中毒(細胞毒)などで痴ほうが起きます。

てんかん重積

けいれんが1時間以上続くことをてんかん重積と言いますが、救急医療の成否が後遺症となる痴ほうの発現を左右します。

正常圧水頭症

歩行が困難となり尿失禁を起こします。脳外科的治療(シャント術)によって治すことができます。

慢性硬膜下血腫

高齢者に多く、頭痛や半身マヒで痴ほうが起きます。脳外科的治療によってよくなる病気です。

脳腫瘍

MRIとかCTで小さなものでも早期に見つけることができますから、脳外科的治療で改善が期待されます。

治療薬による医原性の痴ほう

抗ガン剤、抗精神薬、抗てんかん薬、インターフェロン、消化性潰瘍薬(シメチジン)、強心薬(ジギタリス)、抗パーキンソン薬(アーテン)、呼吸器用薬(テオフィリン)などから、ごく一部の高齢者に痴ほうの原因となることもあります。薬をやめれば治るわけで、最も治療しやすいとも言えます。少なくとも2カ月に1回は診察を受け、副作用を早めにチェックしていただくことが重要です。

脳硬膜移植によるクロイツフェルト・ヤコブ病

以前、東ヨーロッパなどで行き倒れの人の脳の硬膜の移植によって起きたことがありますが、これからは起きないでしょう。

進行性神経変性疾患

アルツハイマー病とかパーキンソン病で、アリセプトとかカバサールが有効です。

早期治療が進展防止へ―危険因子を知って避けることが大切

このほか、新しいタイプの脳の健康被害も起きております。脳を病気から守る最善の道は予防です。痴ほうの原因は一様ではなく、治療効果や予防効果が期待できるものが多く、脳を病気に招く危険因子を知り、それをできる限り避けて健康な脳を保っていただきたいと思います。

(横浜市立大学医学部神経内科学教授・黒岩義之)