健康ア・ラ・カルト

【2)脳と神経】  1)左目の下がピクピク

質問

43歳、女性。昨年3月ごろより左目の下がピクピクと動くようになり、目の疲れだろうと思い、眼科を受診しましたが、目には異常がないとのことでした。最近では顔の他の部分(口のあたり)もピクピクします。どうしたものでしょうか。

回答

◎顔面けいれん

一側顔面が発作性、反復性に自分の意思とは無関係にけいれんを起こす病気を「片側顔面けいれん」と言います。症状をお聞きしますと、この片側顔面けいれんだろうと思われます。痛みとか知覚異常を伴わないのが普通で、単にピクピクするだけですから、さほど苦痛はないように思われがちですが、ひどくなると目が開かなくなるほど一側顔面が歪んでしまい、しかもそれが人前に出た時など緊張した時に起こりやすいため精神的あるいは社会的苦痛が非常に大きい疾患であると言えます。

原因は顔面神経が脳幹部からでたところで微小な血管(多くは動脈)がこの神経を慢性的に圧迫し、この部分で神経の変性(脱髄)が起こり、過剰な興奮が伝播(でんぱ)されるために顔面の表情筋がけいれんを起こすのです。この病気が中年から老年期に多いのは、年齢とともに動脈硬化が進行し動脈の蛇行(曲がり)が強くなり、神経への圧迫が強くなるためです。最近何かと話題にのぼる顔面神経麻痺(まひ)とは反対の状態です。また顔面神経痛はこれとよく似た病態の疾患ですが、三叉(さんさ)神経への圧迫が原因である点が異なります。

治療法としては薬物療法、神経ブロック、高周波凝固術、手術などがあります。このうち手術が最も治療成績がよく、最近では第一選択の治療法となっています。手術は脳神経外科がある一部の病院で行われています。耳の後ろに十円玉くらいの穴をあけ、顔面神経が脳幹部からでたところで神経と血管を離し、あいだにスポンジや綿のようなものを入れて神経と血管が直接接触しないようにするのです。これにより多くの場合、手術翌日から顔面のピクピクはほとんど消失します。また以前は術後に聴力障害などの合併症が少なからず見られていましたが、最近ではこのような合併症はほとんどなく、安全にしかも確実に治る治療法となっています。三叉神経痛(顔面神経痛)も同様の手術でほとんどの場合治癒します。

これら顔面けいれんや三叉神経痛は必ずしも血管による圧迫だけで起こるとは限りません。脳腫瘍(しゅよう)などの1症状として見られることもありますから、いずれにせよ脳神経外科受診をお勧めいたします。

(鳥取県立中央病院脳神経外科・稲垣裕敬)