健康ア・ラ・カルト

【10)アレルギー疾患 等】  1)アトピー性皮膚炎に正しく対応するために

◎アトピー性素因

アトピー性皮膚炎というのは一種の皮膚の炎症です。その炎症の中の一つのタイプがアトピー性皮膚炎です。悪くなったりよくなったりを繰り返す、かゆみのある湿疹、皮膚のごく表面の病気を主病変とする疾患であり、患者さんの多くはアトピー素因を持つということで、アトピー性皮膚炎を考えようととり決められています。家族歴、既往歴をみますと、以前、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎という診断がついた人が家族の中にもしおられたら、アトピー性素因があると判断するわけです。血液の一つの成分としてIgEがありますが、それもアトピー性素因と考えようということです。

患者さんは乳幼児に多く、成長するにつれて少なくなっています。したがって、アトピー性皮膚炎というのは治らない病気ではないということです。3歳までの子供さんで大体10%弱がかかっています。これは純粋なアトピー性皮膚炎です。男女差はないが、最近の傾向は思春期から青年期にかけて非常に患者さんが増えております。すなわち、最近のアトピー性皮膚炎は乳児や幼児よりもむしろ大人の病気になっているわけです。米子の地でも同じような傾向がみられます。

調査によると患者さんの約3割が1歳未満に発病し、5歳までに6割前後が発病しております。その症状はどういうものかということですが、2歳までの乳児期、幼児期から学童期、成人と三つに分けまして、それぞれ特徴的なものがあります。乳児期のタイプというのは、頭と顔に湿疹が出やすく、ひどくなりますと体中に出てきます。幼児期から学童期になりますと、皮膚が乾いてカサカサしてきます。非常にかゆいものですからかいてしまいます。かくために爪が光ることがありますが、爪にも変形がくることもあります。足、首、肘の内側、頭にも出てきます。また、陰のうや陰茎をかゆがることもあります。最近問題になっているのは、なんとなく皮膚が黒ずんでくるダーティースキンという皮膚の現象です。

では季節的にはどうかというと、一般に冬が多いです。寒くて湿度が下がりますと、皮膚がカラカラに乾くのは当然です。それから、真夏も患者さんが増えます。ところが最近は冬が減って3月が増えています。原因はよく分かりませんが、病態が少しずつ変わってきているようです。

次に、検査をするとどのようなものが異常となっているかというと、皮膚そのものの異常と、皮膚と関係のないところの異常の二つがあるわけです。まず皮膚の異常ということは、皮膚が過敏になっていてちょっとしたことでもすぐにかゆがるということです。次に、汗の出口がふさがれて、中でたまってかゆいのが起こる発汗異常。そして、皮膚の脂の出も悪くなっています。これが皮膚の乾燥の原因となっています。次に、皮膚の血管の異常です。それでは血管が異常であればアトピーが起こるかというとそういうものではありません。次に、皮膚以外の異常検査所見です。血液好酸球増加症というのがあります。2番目に、液性免疫の異常がありますが、必ずしもIgE値が高くなるとは限りません。よく卵が悪い、小麦が悪い、牛乳が悪いと言われますが、それが原因であるということではありません。

次に、何を根拠に診断されるか。まず、かゆみがあることです。かゆみのないアトピー性皮膚炎はありません。次に、赤くなった湿疹の状態とできているところが一致していること。湿疹が出てから乳児で2カ月以上、乳児以外は半年以上続くことです。

では、年をとるにつれてどのようになるのか。大部分は治ります。子どもさんで悩んでおられるお母さん方は、取りこし苦労をしてあれこれされない方がいいと思います。

アトピー性皮膚炎にかかっている人は体の抵抗力が落ちて、いろいろなばい菌がつきやすく、はたけ、さめ肌、みずいぼ、とびひ、はげなどがみられます。次に、皮膚病以外ではぜん息、鼻炎です。最近非常に問題になっているのが目の合併症です。白内障、網膜剥離は非常に重要な疾患です。顔にひどいアトピーの皮膚炎がある人は必ず眼科の先生の受診をしてください。

現時点ではアトピー性皮膚炎の原因は分かっていません。ただし、悪くするものとして、アレルギー性のものと非アレルギー性のものがあります。アレルギーを起こすものとして、家の中のほこり、ダニ、花粉、ペットの毛などがあります。食べ物では大豆、牛乳、卵、小麦などです。それから、ストレス、発汗などがあります。

一方、非アレルギー性の立場でいいますと、皮膚は体を守るための防御機能を備えていますが、その機能が障害されていろいろなものが容易に体内に入り皮膚を痛めると考えられます。具体的にいいますと、皮膚の表面の角質細胞は皮脂膜という脂の膜で覆われています。その中のセラミドという脂が少ないために皮膚ががさがさになり抵抗力が弱く、外から容易に物質が入ってくると考えられています。最近は両方の学説をあわせて説明しています。

◎治療の方法

アトピー性皮膚炎は原因も成り立ちも分かっていませんから、対症療法であって根治療法はありません。そこははっきり認識してください。私たちはかゆみを止めるために、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤という薬を使っています。問題はステロイドです。マスコミでステロイドの悪者説がもっぱらですが、大間違いです。ステロイドの薬の性質をよく知らずに誤った使い方をするからです。われわれはひどい患者さんには飲んでもらうこともあります。それから、免疫抑制剤もぼつぼつ使われはじめました。漢方薬は患者さんによっては効きます。

治療のもう一つの柱が軟膏療法です。まず使うのがステロイドです。決して誤った使い方をしないこと。そして、非ステロイド性消炎剤、尿素の入った軟膏です。これらの軟膏をうまく使い分けています。そのほか、光線療法といって薬を塗って紫外線の長いものをかける方法ですが、よく効きます。

◎偏食を避けて

最後に、日常生活で気をつけることですが、まず、皮膚を清潔にする。毎日風呂に入る。石鹸やシャンプーは市販のもので結構です。どうしてもあわないようであれば無刺激の石鹸をお使いになったらいいと思います。汗をかけばすぐにシャワーを浴びる。問題は食事です。偏食を避け、何でも食べてください。もし何か悪いと思われるときは食餌日誌をつけて、悪いものがあったらやめることです。はじめから検査データを過信すると子どもさんの発育障害を起こすことになります。衣類は毛ばったものやガサガサしたものはすぐにかゆくなりますからやめてください。肌着は木綿の柔らかいもの。男児はブリーフよりもトランクスに替えた方がいいです。部屋はよく掃除をし、毎日1回窓を開け風を入れる。ベッドは万年床になりやすいので気をつけてください。家族関係では、会話は楽しくなごやかに。ストレスをとってあげるのが一番です。

今まで申し述べたことを含めて正しいことはどういうことかよく知って、正しい治療をし、快適な生活を送ってもらいたいと思います。

(鳥取大学医学部皮膚科・三原基之)